蕁麻疹…最近の話題(その1)

蕁麻疹はごくありふれた疾患であるが、慢性に経過したものは治療に苦労することが少なくない。蕁麻疹は肥満細胞からヒスタミンが分泌され膨疹を生じるが、アレルギー機序で生じるものと非アレルギー機序で生じるものがある。わが国では1ヶ月以内に症状が消えるものを急性蕁麻疹、1ヶ月以上続くものを慢性蕁麻疹と分けている。急性蕁麻疹は食物、薬剤、虫刺されなどによるアレルギー反応で発症することが多い。原因食物としては成人ではピーナツ、魚、エビ、カニなど、小児では卵、牛乳、小麦などが考えられているが、実際の臨床では原因物質を特定でき、IgEを介した即時型(I型)反応が証明されることは少ない。むしろ患者の体調などが発病の引き金になっていることが多く、たとえば風邪を引いた後、胃腸をこわした後、ストレスが続いて体が疲れた後などに、急性蕁麻疹が現れやすい。

 

食物性蕁麻疹のなかには、アレルギー反応によらない仮性アレルゲンやイントレランス(不耐症)により発症するものがある。仮性アレルゲンというのはヒスタミンないしヒスタミン様物質を多く含んだ食物(サバ、豚肉、タケノコなど)をいい、それらを摂取した後に蕁麻疹が現れることがある。イントレランスとは不耐性と訳され、アスピリンや消炎鎮痛剤などにより蕁麻疹が生じるが、IgEを介さず非アレルギー反応で発症する。これはアスピリンや非ステロイド抗炎症剤(NASIDs)のシクロオキシゲナーゼ阻害作用によるプロスタグランジン産生とロイコトリエン産生のアンバランスにより蕁麻疹が生じるもので、アスピリンなどの薬理作用による。同様にサリチル酸含有食物や防腐剤、着色料、保存料などの食品添加物も過敏性を示し蕁麻疹が出ることがある。そのほか非アレルギー機序による蕁麻疹には機械的蕁麻疹(人工蕁麻疹)、コリン性蕁麻疹、寒冷蕁麻疹、温熱性蕁麻疹がある。

 

実際の臨床上では慢性蕁麻疹の原因は不明のことが多く、抗ヒスタミン剤の内服だけでは治癒しない症例が少なくない。最近では蕁麻疹の原因としてウィルス感染が関与しているケースや、難治性の蕁麻疹患者に自己免疫抗体が認められることもある。食物性蕁麻疹の一種である食物依存性運動誘発アナフィラキシーも注目されているが、特定の食物摂取後に運動負荷が加わった場合に限ってアナフィラキシー症状が出現するという特異な疾患である。

これら 最近注目されている蕁麻疹の考え方について簡単に説明する。

 

1)ウィルス性蕁麻疹

 

急性蕁麻疹の多くは風邪を引いたり、胃腸をこわした後に出現することはよく経験される。特に小児の場合は風邪ぎみの後に蕁麻疹が生じやすい。確定的なことはいえないが、患者の体調が変化し、胃腸での吸収過程で蕁麻疹を引き起こすある異物(抗原)が吸収されやすくなり、アレルギー反応が生じるものと考えられる。また伝染性単核症の原因であるEBウィルス(Epstein Barr Virus)、サイトメガロウィルス(CMV)、A、B型肝炎ウィルス、伝染性紅班の原因であるパルボウィルスなどのウィルス感染の前後に蕁麻疹が出ることがあり、発熱などの感染症状を伴って膨疹が認められる。発症機序としてはウィルス感染による免疫複合体が、肥満細胞(マスト細胞)を活性化するのではと考えられている。

 

2)自己免疫性蕁麻疹

 

難治性の蕁麻疹を皮膚の自己免疫疾患として捉える考え方がある。欧米のデータでは5から10%の患者にIgEを認識する自己抗体(抗IgE抗体)が存在すると報告されている。自己免疫性蕁麻疹といわゆる慢性蕁麻疹を臨床的に区別することは出来ない。患者の自己血清を皮内注射すると紅班・膨疹が惹起されるが、この自己抗体が膨疹の形成にどのような作用するかは不明である。最近の研究では膨疹形成に直接働く因子(機序)は別に存在し、自己抗体はそれに対する感受性を亢進し、活動性を高めているにすぎないとする考え方もある。すなわち抗IgE抗体とIgE抗体が結びつくことにより、あらかじめ感作された肥満細胞からの脱顆粒を誘導して蕁麻疹が出現すると考えられている。原因不明で難治性の慢性蕁麻疹患者の中には自己免疫抗体が関与している可能性があり、今後詳細な病態の解明と簡単な診断法が待たれる。自己免疫性蕁麻疹は病態に何らかの自己免疫機序の関与しているので、治療においては抗ヒスタミン剤の内服だけでは不充分で、ステロイド内服、シクロスポリン内服など免疫抑制治療法が必要となる。

 

3)アスピリン蕁麻疹

 

アスピリンや非ステロイド抗炎症薬によって誘発される蕁麻疹をいう。アナフィラキシーであるが、IgEを介したI型反応で起こるのではなく、その薬理作用によって誘発されるのでPseudoallergyと呼ばれる。Pseudoallergyとは即時型反応に似るが、アレルギー反応で起きるのでないので不耐症(イントレランス)とも呼ばれ、1)IgE抗体は関与しない、2)反応が原因物質の用量依存性である、3)原因物質に最初に暴露されたときでも反応を起し得るなどの特徴を有する。イントレランスは用量依存性が強いので、これらの物質を長期間摂取した後に症状がでやすく、例えば、アスピリン蕁麻疹は小児より成人に多くみられ、20〜40歳代にピークがある。

 

アスピリンの作用点

                                                                                 ロイコトリエン(リポキシゲナーゼ)

アラキドン酸(リン脂質)                              プロスタグランディン(シクロオキシゲナーゼ)

                                                                                トロンボキサン(シクロオキシゲナーゼ)

 

アラキドン酸からPGD、トロンボキサン合成を触媒する酵素がであり、アスピリンの作用はシクロオキシゲナーゼ(cycloxygenase)を阻害するが、リポキシゲナーゼ(lipoxygenase)は阻害しないため、ロイコトリエンが産生されやすくなり、アレルギー症状を引き起こす。