重症薬疹
重症薬疹とは薬疹によって生命に危険を及ぼすような重症な薬疹をいう。Stevens-Johnson症候群、中毒性表皮壊死症(Lyell症候群、TEN)、薬剤過敏症症候群、紅皮症型薬疹などがある。この中で、市販の風邪薬が原因になりうることで注目されてきたStevens-Johnson症候群、内服後3〜4週間後に薬疹が出るため、原因薬剤を見落としやすい薬剤過敏症症候群について述べる。これらの重症薬疹には体内に潜伏していたウィルスが再活性化してウィルス感染の症状が加わることもある。
1)Stevens-Johnson症候群(皮膚粘膜眼症候群)
原因:抗生物質、消炎鎮痛剤、抗ケイレン剤、市販の風邪薬
特徴:摂取数日〜数週間後に多型滲出性紅班、粘膜症状
自験例(1)
16歳、高校生。原因不明の発疹が出現し、上田市内の病院を受診。症状悪化のため、信大病院へ入院した。市販の風邪薬が原因のSJSと診断された。皮膚症状や粘膜症状は改善したが、肝炎の症状は持続した。種々の薬剤に過敏となり、的確な治療ができなかった。一時退院の際、当院に相談に訪れた奨励である。SJSは抗ケイレン剤、消炎鎮痛剤などが原因薬剤であるが、市販の風邪薬によることも少なくない。充分に気をつけたいものである。なお、SJSになると失明の危惧に加えて、多剤過敏性となりやすく、最善の治療が出来ないことがある。
自験例(2)
49歳男。H17.2.17、初診。舌に口内炎ようの潰瘍が見られた。以前から口唇ヘルペスでゾビラックス内服治療を受けていたので、今回もヘルペス性舌炎と考え、ゾビラックスを投与した。11日、全身に薬疹様の紅班が彌慢性に出現し、眼瞼が浮腫性に充血し、舌潰瘍も持続し、加えて亀頭にも潰瘍が見られた。薬疹と考え、患者に何か薬の服用はないかと尋ねたが、何も飲んでいないという。薬疹に診断でプレドニンの点滴を始めた。13日、患者がインターネットで調べていたら、テグレトールが薬疹の原因になるという事が書いてあり、脳外科で処方された三叉神経痛の治療薬を調べたら、テグレトールであったという。テグレトール内服によるStevens-Johnson症候群と診断し、大量のプレドニンの点滴治療を始めた。15日には発疹が薄くなり、粘膜の潰瘍も徐々に軽快してきた。肝機能検査では特に異常値は認められなかった。Stevens-Johnson症候群は結膜、口唇、陰部などの粘膜症状が強いのが特徴であるが、自験例(2)では、ヘルペスウィルス1、2の再活性化を思わせた。
2)薬剤過敏症症候群
症状:発熱、リンパ節腫脹、発疹(播種状紅班丘疹型)(図3)、肝障害
原因薬剤:抗ケイレン剤、尿酸生成阻害薬、抗生物質、血圧降下剤
特徴:内服3〜4週間後に発症、ウィルス(HHV−6)の再活性化
自験例(3)
35歳男。H16.10.25、初診。全身に薬疹を思わせるビ慢性の紅班があり原因不明ではあったがステロイド治療を開始した。28日になっても発疹は持続し、発熱、咽頭痛あり。30日、上半身は紅皮症様となり、患者が実はテグレトールを服用していることを告白した。直ちにテグレトールを中止し、ステロイド剤点滴を続け、11.6ほぼ治癒した。リンパ節腫脹はなかったが、GOT215、GPT616、γGTP626で薬剤性肝炎を併発した。本例はテグレトール内服40日後に発症した。発熱、肝炎の併発はあったが、リンパ節腫脹はなかった。早めに診断できたため、典型的な薬剤過敏症症候群にはならずに済んだ。薬剤過敏症症候群はヒトヘルペスウィルス6型(HHV−6)の再活性化によりび慢性の紅班、発熱、関節痛、肝障害が発症すると考えられている。
3)ヘルペスウィルスの再活性化による疾患
ヒトのヘルペスウィルスは、ヒトが類人類から現世人類に進化してきた過程において、宿主であるヒトと共に進化したものである。従って、ヘルペスウィルスと宿主であるヒトとの関係はきわめて長く、ウィルスと宿主の相互関係は安定したものである。初感染の後、体内に潜伏感染、あるいは持続感染の感染様式を示すという生物学的性状を持つ。しかし、一般に生体の免疫状態に変調をきたすような時に再活性化(reactivation)現象を起こし、再燃することがある。ヘルペスウィルスによる再活性化として1)HSV-1、HSV-2は口唇ヘルペス、性器ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、ヘルペス性脳炎、角膜ヘルペス、2)VZVは水痘、帯状疱疹、3)EBVは伝染性単核症、バーキットリンパ腫、4)HCMVは間質性肺炎、5)HHV-6は突発性発疹、脳炎・脳症、脊髄炎、髄膜炎、慢性疲労症候群?、薬剤性過敏症症候群、6)HHV-8はカポジ肉腫などがある。
薬剤性過敏症症候群はHHV-6の再活性化により紅班、肝障害、リンパ節腫脹が生じると考えられているが、Stevens-Johnson症候群でもHSV-1、HSV-2の再活性化により粘膜症状が増悪した可能性がある。
4)薬疹におけるウィルスの再活性化に関して
薬疹はIII型アレルギー(免疫複合型、アルサス型)反応で生じるが、この反応では抗原―抗体結合物(免疫複合体)が組織に沈着して、補体を活性化し、白血球が遊走し、血小板が凝集(好中球などから活性酸素や加水分解酵素などを放出)して組織障害をきたす。
ウィルスは生体の免疫状態に変調をきたすような時に再活性化(reactivation)現象を起こし、再燃することがある。例えば、NSADs.(非ステロイド消炎鎮痛剤)はプロスタグランディン(疼痛、発熱、血管拡張)の合成を阻害(下図)するが、同時に免疫反応に関しては自然免疫におけるNK細胞、γδT細胞のサイトカイン産生を抑制し、獲得免疫におけるCD4、CD8T細胞のサイトカインの産生を亢進し、自然免疫と獲得免疫のアンバランスが生じると、免疫状態が変調し、ヘルペスウィルスが再活性化し、再燃する可能性がある。同様に抗生物質や抗ケイレン剤の投与でも免疫状態の変調がきたされれば、ウィルスの再活性化現象がおき、再燃する可能性がある。ウィルス感染が再燃すると免疫複合体による組織障害が増悪され、重症薬疹においては皮膚症状に、ウィルス感染の全身症状が加わって重症化するのではないか。
なお、ウィルス感染時や薬疹の高熱時にNSADsの乱用して免疫反応のアンバランスを生じると、小児ではReye症候群、インフルエンザ脳症などが発症することがある。
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参考:プロスタグランディン合成経路と阻害薬の作用機序 |