ライム病の一例

患者:60歳、男

主訴:右手背の瘙痒性皮疹

 

現病歴:H21.9.20から右手背に瘙痒性皮疹が現れた。24日に当院を受診し虫刺されの診断でステロイド軟膏が投与された。しかし、皮疹が拡大し熱感を覚えるようになったため、28日に再来院した。

現症:右手背部に6×7cmの環状紅班を認め、辺縁は隆起しその中央に刺咬部を認める。辺縁部は熱感を帯び、堤防に囲まれた内側は淡い紅班となっている。この皮疹はいわゆる遊走性紅班で、ライム病と診断した。ダニに刺されたことは無いかと問診すると、19日に大河原峠へキノコを採りに行ったという。

平成21928日、ライム病と診断した

左図の拡大、環状紅班と中央部に刺咬部あり

ミノマイシン内服3日目

内服三週間後、ほぼ治癒した

 

治療:ただちにミノマイシン100mgを一日二回内服し、暫くするとヒリヒリ感が消えた。3日後に来院した時には、辺縁部の隆起が消え、紅班も消褪してきた。ミノマイシン内服を三週間続け、ほぼ治癒したと考えられた。

抗体検査は国立感染症研究所の川端寛樹博士にお願いした。ウェスタンブロット法によるライム病抗体検査でIgM抗体、IgG抗体ともに陽性であった。

考察:本邦では1987年に最初のライム病が長野で報告されて以来、本州中部以北から北海道といった寒冷地を中心にその報告例は増加しつつある。本邦におけるライム病の媒介者は病原体を保有する野ネズミ、鳥に吸血し有毒化したシュルツェマダニの雌で、本州中部以北の山間部に棲息し、北海道では平地でも見られる

遊走性環状紅班があり、マダニ咬着の既往が明らかな場合は診断が容易である。本例のように咬着を自覚しないこともある。随伴症状として筋肉痛、関節痛、頭痛、発熱、悪寒、全身倦怠感などインフルエンザ様の症状を呈することもある。確定診断には病原体の検出 (分離培養)、又は血清診断 (ウェスタンブロット法によるIgM、IgG抗体陽性)が必要である。

ライム病は4類感染症に分類され届けの義務があり、l2007年は10 例、2008年は4例、2009年は10月まで5例が届け出されている。