気管支喘息の治療
1)予防
喘息の予防として、まずダニ、ハウスダストなどの原因となりそうなものをなるべく回避する(じゅうたんを止めフローリングの床にする、掃除をこまめにするなど)。発作の予防としては薬を正しく使うことが大切である。最近の気管支喘息は慢性の気道の炎症性疾患であるという概念が確立されており、吸入ステロイドが重要視されている。発作時の治療(レリーバー)と長期管理(コントローラー)に分けられる。
2)レリーバー(治療)
吸入ステロイドは症状のコントロール、肺機能の改善に有効であることが、広く認識されている。発作時に頓用し、発作状態からの離脱をはかるために、短時間作用型吸入β2刺激薬、抗コリン薬などが使用される。但し、吸入ステロイドを継続しても、気道の炎症反応を完全に抑制することは出来ない。ロイコトリエン拮抗剤も併用薬としての効果は認識されているが、中等度、重症の喘息ではその併用効果がないことが報告されている。
3)コントローラー(長期管理)
長期管理薬は予防維持薬ともいわれる薬剤で重症度別にステップ1から4に分けられ、いろいろの抗炎症薬(吸入ステロイド)、β2-刺激剤、抗アレルギー剤、長時間作用型の気管支拡張剤(徐放性テォフィリン)などが使用される。抗アレルギー薬は異なる作用機序を有する薬剤があり、ヒスタミンH1拮抗薬、トロンボキサン阻害薬、ロイコトリエン拮抗薬、Th2サイトカイン阻害薬などは適用の症例を選ぶ必要がある。
4)気管支拡張薬
@ 内服用β2刺激薬…メプチン、アロテック、ブリカニールなど
A 吸入用β2刺激薬…メジヘラー、サルタノールなど
B キサンチン誘導体…テオドール、ネォフィリンなど
C
抗コリン薬…噴霧式吸入器
5)ステロイド薬…吸入用ステロイド、経口ステロイド
成人喘息の第一選択薬として抗炎症薬である吸入ステロイド薬があげられているが、実際にはわが国ではそれほど頻繁には使われていない。ステロイド恐怖症というのがあり、ステロイド薬が怖い薬であると思い込んでいる人が多いためである。ステロイドのトラウマとして、1956年、経口ステロイド薬のプレドニンが発売され、喘息治療に使われ絶大な効果があったが、結果として副作用が頻発した。1965年に注射薬のトリアムシノロン(ケナコルト)が売り出され、1回注射すると1ヵ月間は発作が起きないような薬であったが、長く使うとやはり副作用が出てきた。その結果、経口でも注射薬でもステロイドは副作用の問題を抱え、そのイメージがいつまでも残っている。しかし吸入ステロイド薬は全身の副作用が少ないとされ、気道炎症を抑える切り札として推奨されている。
6)DSCG(インタール)
治療法にはstep up法(軽症治療法から徐々に重症治療法に上げていく)とstep down法(はじめから強い治療法を行いその後は徐々に軽い治療法に下げていく)がある。 軽症の治療薬としてはβ2刺激薬の吸入、内服または抗アレルギー薬のDSCG(インタール)の吸入が行われる。DSCGは気道過敏性の抑制、気道粘膜中の好酸球、肥満細胞の減少、接着分子の発現の抑制などアレルギー性炎症に対し抑制的に働くことが示されている。また、我が国では小児喘息の重症例にDSCG+β2刺激薬混合吸入療法が好んで行われている。喘息は抗酸球炎など気道の炎症が強いのでステロイド吸入で炎症を抑えた方がよく(early intervention)、成人の重症例でははじめからステロイド剤吸入が行われる。
7)抗アレルギー薬…オノン、バイナス、ドメナンなど
抗アレルギー薬はクリニカル・エフェクティブ(臨床的に有効である)というよりも、セオリティカル・エフェクティブ(理屈の上からは有効である)の面から使われている。ロイコトリエンは気管支収縮作用、炎症惹起、好酸球炎を引き起こす作用、血管透過性亢進作用などがある。ロイコトリエン拮抗薬(オノン)は気管支喘息、アスピリン喘息、運動誘発性喘息の治療薬として併用されているが、その効果は報告者により異なる。
アイピーディ(IPD)はTh2細胞由来のインターロイキン4(IL−4、IgE抗体を産生する)、インターロイキン5(IL−5、好酸球を浸潤させ、活性化する)を抑制し、アレルギー反応や抗酸球炎を抑える作用がる。
8)テオフィリン
テオフィリン薬は欧米とは異なり、日本で汎用されている。薬価の安さ、使用経験が長く使い勝手がわかる、気管支拡張作用のほか、ロイコトリエン拮抗薬よりは弱いが抗炎症作用があるとされている。β2刺激薬は気管支拡張作用しかなく、動悸、手の震えなど副作用がある。
9)まとめ
気管支喘息はその病態機序が気道局所の炎症性疾患であるとされている。その治療には直接気道へ薬剤を到達させる吸入療法がより少量で効果的かつ全身への副作用も少ないと推奨されている。一般に発作治療薬としては気管支拡張作用のある薬剤が、長期管理薬としては抗炎症作用のある薬物が基本である。