アスピリン喘息(Aspirin-induced-asthma)

 

1.  アスピリン喘息とは

 

アスピリン喘息はアスピリンだけでなく、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)(市販品ならバファリン、セデス、ノーシン)や、NSAIDsが含まれる注射薬、座薬、湿布や塗り薬などで誘発される喘息発作で、軽い息苦しさを自覚する程度から、意識消失を伴う急性喘息重積発作までいろいろある。喘息発作は15分〜30分以内、遅くとも120分までに発症する。アスピリンや非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を初めて服用した喘息患者に起こることもあれば、以前から服用していても何ら症状を示さなかった鎮痛解熱剤が、ある日それを服用したとたん、突然急性発作を引き起こす場合もある。原因としてはアスピリンをはじめとする非ステロイド性解熱鎮痛剤がシクロオキシゲナーゼ活性を阻害する結果、アラキドン酸からのプロスタグランジン(PG)の産生が抑制され、気管支拡張性のPGE1、PGE2などが減少し、気管支が収縮する。そしてアラキドン酸はPGの産生に使われず、5−リポキシゲナーゼ経路へ流れる結果、SRSA(ロイコトリエン)がより多く産生され、気管支収縮が起こると考えられている。

 

アスピリンの作用点

                                                     ロイコトリエン(リポキシゲナーゼ)

アラキドン酸(リン脂質)                    プロスタグランディン(シクロオキシゲナーゼ)

                                                                  トロンボキサン(シクロオキシゲナーゼ)

 

アラキドン酸からPGD、トロンボキサン合成を触媒する酵素がであり、アスピリンの作用はシクロオキシゲナーゼ(cycloxygenase)を阻害するが、リポキシゲナーゼ(lipoxygenase)は阻害しないため、ロイコトリエンが産生されやすくなり、アレルギー症状を引き起こす。

 

2.アスピリン喘息の特徴

 

アスピリン喘息は成人喘息の4〜10%を占め、決してまれな疾患ではない。3050歳代に発症する事が多く、男女比は2対3と女性に多い。慢性通年性喘息で、ステロイド薬投与を要する重症例が多いが、軽症例も20%ほど含まれる。大発作の既往を有する例が多い。疑うべき臨床像は、成人期に発症した喘息で嗅覚低下、鼻閉、鼻汁など嗅覚障害や、アレルギー性の副鼻腔炎、鼻茸の合併(または手術歴)がみられる。逆に10歳以下の発症で強いアトピー素因を有するケースではまれである。また、嗅覚が正常な場合はアスピリン喘息を否定できる。酸性NSAIDsで誘発される発作の典型的経過は、服用1時間以内に鼻閉、鼻汁が生じ、次いで喘息発作が出現する。発作の多くは激烈でときに致死的であるが、24時間以上持続する事はない。皮膚症状の誘発は少ない。

 

3.発作時の注意事項

 

アスピリン喘息で問題となるのは、それとは知らずに対応すると致死的な大発作を招きやすく、医療事故につながる可能性が高い。アスピリン喘息の治療で最も注意すべき点は、各種静注薬、特に静注用ステロイドの急速静注で発作が悪化しやすいことである。静注用ステロイドにはコハク酸エステル型(サクシゾン、ソルコーテフ、水溶性プレドニン、ソルメドロール)とリン酸エステル型(水溶性ハイドロコートン、コーデルゾールなど)がある。アスピリン喘息は特にコハク酸エステル構造に潜在的に非常に過敏であり、それらを静注は禁忌である。成人喘息を見た場合、アスピリン喘息かどうかを的確に判断する事が極めて重要であり、本症と診断された場合はステロイドの急速静注と塩酸ブロムヘキシン(ビソルボン)吸入は避けなければならない。

 

4.発作時の治療

 

一般喘息とは異なる救急対応が必要で、喘息発作には、エピネフリン0.10.3mgの筋注、もしくは皮下注が極めて有効である。ステロイドではデカドロン、リンデロンを点滴で用いる。喘息症状は数時間から半日続くが、一般の喘息患者にみられる遅発反応や2相性反応はなく、最初の数時間を乗り切れば再燃しない。鼻症状は喘息症状と同調する。

 

5.喘息患者の長期管理

 

酸性NSAIDsを服用しない事はもちろんであるが、練り歯磨き、香水の臭い、香辛料が多く含まれる食事、果実などで発作が悪化することがある。吸入ステロイド薬を基本とした喘息ガイドラインに順ずる。しかし、アスピリン喘息は重症例が多いため、通常の吸入ステロイド薬と気管支拡張薬の組み合わせだけでは症状がコントロールできない場合も多い。インタールが有効の事がある。

 

6.喘息患者の発熱、疼痛時の対応

 

酸性NSAIDsは禁忌である。発熱時は原則には氷冷しかない。ステロイドの全身投与はよい。アセトアミノフェンは避けたほうがよい。PL顆粒は使用可能である。疼痛時には塩基性消炎薬(ソランタール)やペンタゾシンは使用可能である。

 

7.まとめ

 

成人の気管支喘息患者に対して詳しく問診を行い、出来るだけ早くアスピリン過敏症を診断し、アスピリン喘息が疑われた場合は、誘因物質、使用禁忌薬剤などを十分に説明し、患者がステロイド依存症に陥らないように、また難治化しないようにすることが大切である。また、発作時の治療では一般の喘息治療とは異なりコハク酸エステル型ステロイド剤の静注は禁忌である。

 

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