蕁麻疹

 蕁麻疹とは何らかの原因により皮膚のいろいろな部位に膨疹(wheal)の出現を特徴とするもので、一種の症候群とみなされる。その膨疹とは真皮上層の限局性、一過性の浮腫と定義されるが、血管透過性亢進により真皮内に流出した血漿蛋白は真皮の組織間隙圧によって抑制され限局した浮腫(膨疹)となる。以下に述べるようにいろいろな原因によりヒスタミンやブラディキニン、SRS-A、アセチルコリンなどの化学物質(chemical mediator)が分泌され血管透過性が亢進するが、必ずしもアレルギー反応で起きるものではない。

蕁麻疹の分類

 発症機序によって分けるのが理解しやすい。

アレルギー性蕁麻疹・…抗原抗体反応によって起こるもの(急性、慢性蕁麻疹)

ヒスタミン性蕁麻疹…・ヒスタミンの遊離によって起こるが必ずしもアレルギー機序がはっきりしないもの(人工蕁麻疹、寒冷蕁麻疹など)

コリン性蕁麻疹・・……交感神経末端でアセチルコリンが分泌されることにより起こるもの

クィンケの浮腫………真皮深層から皮下組織に浮腫が生じるもので普通に見られる蕁麻疹とは異なるもの

)アレルギー性蕁麻疹

 蕁麻疹はかゆみの激しい紅班を伴った膨疹が出没を繰り返す。膨疹の発生は一過性(通常1〜数時間)であとかたなく消え去ることもあるが、次々と出現することもある。蕁麻疹発作が一回あるいは数日で終わるものを急性、1ヶ月以上にわたって反復するものを慢性という。

a)急性蕁麻疹

 急性蕁麻疹は突然からだ全体にかゆみの強い膨疹が次々と出現し、患者さんはいても立ってもいられないという状態になり、痒いところをかけばかくほど膨疹が拡がって来るというやっかいな病気です。原因としては食べ物、薬物、虫刺されなどいろいろ考えられているが、ほとんどのケースで原因はわからない。原因がはっきりしているものとして抗生物質注射後や、蜂に刺された後の蕁麻疹は誰にでも理解できる。しかしながら大部分の場合は食べ物が原因かなと想像することは出来るが本当のことは不明である。以前より蕁麻疹を生じる食べ物として、あじやさばなどの「青ざかな」や、かに、たこ、えび、貝類などが考えられている。しかしながら患者さんは訴える。「今までなにを食べていても何ともなかったのに今回突然このような蕁麻疹が出現したのか不思議です」と。私は次のように考えている。「蕁麻疹が突然出るときは患者さんの胃腸の具合がいつもより悪いのではないか」と。そして「食べ物は胃と十二指腸で消化し小腸で吸収するが、胃腸の働きが正常であれば不純物などは吸収されない。しかし小腸の具合が調子が悪いとき、例えば食べ過ぎ、飲みすぎ、かぜによる感染性胃腸炎などがあると、からだにとって異物とみなされる不純物(抗原物質)が吸収され、蕁麻疹が生じるのではないか」と。食べ物似より発症する急性蕁麻疹は単なる1型アレルギー反応だけでなく、何らかのプラスアルファの要因が加わる様である。

このように考えると@食餌性蕁麻疹は比較的早く治ること、Aこれらの患者はいわゆるアレルギー体質ではないこと、Bこの次に同じ食べ物を食べても蕁麻疹が出ないこと、などが理解できる。

b)慢性蕁麻疹

実際の臨床では原因が明らかでなく、膨疹が再発を繰り返す慢性型の蕁麻疹が少なくない。従来から蕁麻疹の誘発、増悪因子としてサリチル酸(アスピリン)、消炎鎮痛剤(メフェナム酸)などの薬物、人工着色料などの食品添加物、ヒスタミン、アセチルコリンを含む食物(ほうれん草、なす、そば、たけのこ、里芋)が考えられているが、慢性蕁麻疹の発症にどのように関与するかはわかっていない。アルコール摂取、睡眠不足、疲労、精神的ストレスなども増悪因子である。なお病巣感染後に蕁麻疹が出ることがあり、小児の蕁麻疹は風邪の治療が長引いたときに多い。

)ヒスタミン性蕁麻疹

ヒスタミンが分泌され蕁麻疹が生じるが、必ずしもアレルギー反応によるものでない。

a)人工蕁麻疹

人工蕁麻疹は別名、機械的蕁麻疹とも言われる。機械的な刺激や、指で擦ったりした時にその刺激を受けた部位に一致してみみずばれに似た膨疹が生じる(隆起性皮膚描画症または隆起性デルモグラフィーとも言う)。ヒスタミンが放出されて膨疹が生じるが、抗原が体の中に入ったものではなく、アレルギー反応の関与は不明。人工蕁麻疹はある日突然出現する。例えば女性の場合妊娠出産の後に蕁麻疹が出ることが多く、妊娠出産という女性にとってはかなりの負荷が加わり、体質が変わったようである。大きな手術を受けた後、例えば虫垂炎手術後、胃全摘出術、帝王切開の後にも蕁麻疹が出やすい。男性の場合も暴飲暴食の後や、体調を崩した後に蕁麻疹が生じることが多い。

b)寒冷蕁麻疹

寒気、冷水にさらされた後にその暴露部位に膨疹が生じることをいう。診断方法は洗面器に水を入れ、片方の手を水の中に入れ、他方は外に出しておく。10分後コントロールに比べ水の中に入れた手に紅班、膨疹を認めれば寒冷蕁麻疹と診断する。日常の臨床では寒冷蕁麻疹を訴えてくる患者は見られるが実際にはさほど多くない。もし寒冷蕁麻疹と診断されたら冷水中で泳ぐことは危険である。また冷たい飲み物(ビール、ジュース、水)を一気に飲むと咽頭や喉頭に浮腫を生じ呼吸困難になりやすい。

c)日光蕁麻疹

日光照射後10ないし20分で照射部位に膨疹が生じるものを日光蕁麻疹という。膨疹は日光の当たった皮膚に限局して現れ、日光を避けると1から2時間くらいで痕跡を残さず消えていく。照射皮膚に光線が吸収されと、光のエネルギー作用で皮膚成分が修飾され構造が変化し光産物と呼ばれる。この光産物が抗原となって即時型アレルギー反応が成立すると言う考え方もある。日光蕁麻疹はいつも日光に当たっている顔面や手などではなく衣服で覆われている上腕,体幹に発症することがある。これは顔面、手などは持続的,慢性的に日光に暴露されtolerance(耐性)ができるからといわれる。日光蕁麻疹が全身及んだ場合は頭痛,意識混濁,ショック症状を呈することもある。日光蕁麻疹と似たものに多形日光疹というものがある。多形日光疹は日光照射後数時間してから発疹が現れ,発疹が数日間持続することで日光蕁麻疹と区別される。

)コリン性蕁麻疹

発汗、運動、精神的緊張などで交感神経が刺激された後、直径1cm以下の膨疹が出来るのをコリン性蕁麻疹という。膨疹の周囲に紅班が見られ痒いというより痛痒いと言う感じである。夕方から夜にかけて出て、大脳皮質が休んでいる夜間には出ない。本症の発生機序はよくわかっていないが発汗刺激因子により、中脳の発熱中枢が刺激され、コリン性神経を介して皮膚の神経末端でアセチルコリンが分泌され膨疹が生じるといわれている。コリン性蕁麻疹はアセチルコリンに対して膨疹が生じる蕁麻疹であるが、ヒスタミンがどのように関与するかは報告者により異なる。汗の水分が皮脂と反応して中毒物質を生じ、これが吸収されて毛包周囲の肥満細胞からヒスタミンを遊離させるという説もある。以前から心因性蕁麻疹としてストレスによる蕁麻疹があるが、多くはアセチルコリンが関与している

)クィンケの浮腫

 クィンケの浮腫は血管性浮腫(Angioedema)とも呼ばれ、ヒスタミンの他にセロトニン、その他血管作動性ペプチッドが作用して浮腫が出来る。クィンケの浮腫は蕁麻疹と同じアレルギー機序が考えられているが、蕁麻疹(真皮上層)とは違ってより深い真皮から皮下組織に浮腫が生じる。従って臨床的には顔瞼、口唇、頬などが限局性に腫脹するのが特徴で、熱感、瘙痒を伴う。咽頭粘膜や喉頭粘膜に浮腫が発生すると呼吸困難をきたすことがある。限局性の浮腫は数時間から数日持続する。クィンケの浮腫には前駆症状として食欲不振、胃腸障害、頭痛などが認められ、ただ単なる抗原―抗体反応だけでは説明がつかない事が多い。原因はよくわかっていないが薬剤、特にペニシリン系薬剤が関係しているといわれる。