化学物質過敏症(アトピー性皮膚炎との関連)
1.化学物質過敏症
シックハウス症候群とか化学物質過敏症という病気が最近問題になっている。シックハウス症候群というのは病気の家という意味で、新建材などに含まれる化学物質が原因で皮膚傷害をはじめとするいろいろな健康被害が出る病気の総称。有害物質として壁紙を貼る接着剤や合板に含まれるホルムアルデヒドが有名だが、塗料に含まれるトルエン、木材やカーペットに広く使われている防虫剤、シロアリ駆除剤など多種多様の化学物質がある。今まで住んでいた家では何ともなかったのに、新しい家に引っ越してから目がちかちかする、涙が出てくる、鼻が出てくる、車に酔ったような感じがする、顔がヒリヒリするなどいろいろな症状が出るが、これらの症状は新築住宅に住んでから発症するためシックハウス症候群と呼ばれている。シックハウス症候群という言葉は、住宅に起因する健康被害全般を捉えたものであるが、化学物質過敏症は必ずしも住宅だけではなく、もっと広い意味の化学物質によりいろいろな体の変調をきたすものを言う。例えば衣類の防虫剤、防虫家具、トイレの芳香剤、塩化ビニール、発砲系の断熱材などによる。
2.電磁波とアトピー性皮膚炎
最近では電磁波が大きな問題になっている。例えばコンピュータソフトを作っている会社に勤めてから発症した患者は電磁波による過敏で増悪するが、休日は皮膚症状が軽くなるという。量販店で働き出してから発症した患者はダンボールを開けビニール袋を取り外すときに、皮膚がヒリヒリすると訴える。スーパーのレジで働いている患者は品物の値段を感知するバーコードを使う際、なんとなく皮膚に刺激感があるという。これらの患者は成人型アトピー性皮膚炎と診断されているが、今まで普通の生活をしていたが、会社に勤め始めてから顔面に発疹が現われ、次第に全身に拡がって来た。大学生の皮膚症状が悪化するのは、部屋の掃除をしないことによるダニ、ほこりのアレルギーの他に、テレビ、パソコンの使いすぎによる電磁波の影響があるに違いない。電磁波過敏症の人は高圧線に近づかないことや携帯電話の使用を制限する必要がある。
3.アトピー素因と化学物質過敏
化学物質過敏症というのは大部分の人ではほとんど問題にならないが、例えばアトピー素因を持つ患者では顔面にかぶれ様の症状が出やすく、難治性のこともあり患者を悩ますことになる。そして、患者自身も化学物質によるとは考えてもみなかったことで、今までどうして皮膚炎が生じたのか理解出来ないことが多い。医師としてもいろいろな具体例をあげて化学物質過敏を理解してもらう必要がある。新築,リフォーム,転居などがきっかけで,アトピー性皮膚炎が増悪する例が少なくなく、原因と思われる化学物質に触れないと皮膚症状もかなりよくなってくる。
4.環境ホルモン
ダイオキシンなどの環境ホルモンもアトピー素因の人にいろいろの影響を及ぼす可能性がある。化学物質や環境ホルモンなどの環境汚染により鼻,眼,気管支粘膜のアレルギー疾患が増加し,アトピー性皮膚炎の重症化や成人型アトピー性皮膚炎も増えたのではないか。環境ホルモンが胎児の脳に障害を与えることは証明されており、異常な数にのぼる登校拒否,学級崩壊,家庭内暴力,いじめ,少年犯罪の増加なども環境ホルモンが誘因とは考えられないだろうか。開放的だった昔の住まい,そして自然の素材に囲まれて生活していた時代には,アトピーだの化学物質過敏症だのとわけのわからぬ病気になる心配はなかった。
5.おわりに
今後医療従事者は患者さんを診察する際、いろいろな角度から病気を診断し、治療する必要がある。アトピー性皮膚炎の診断、治療も同様で、難治性といわれる顔面潮紅型についても医師と患者の信頼関係を深めつつ、化学物質過敏などの増悪因子見つけ出すよう努力して治療したいと思う。