気管支喘息

 

)喘息とは

 

近年、気管支喘息の患者が世界的に増加し、先進国では10年ごとに1.5ないし2倍くらい増えている。気管支喘息は広汎かつ種々の程度の気道閉塞と気道炎症により喘鳴、呼吸困難、咳嗽などを特徴とする。その発症には多くの因子が加わっている(表1)。最近では気管支喘息の病因に気道炎症(好酸球炎)が重要視されている。すなわち、喘息とは気道収縮、気道の過敏性亢進、気道炎症、気道のリモデリングが特徴とされ、その本体は気道の炎症である。小児喘息は思春期までに60%程度の患者が無治療で無症状という臨床状寛解に到達する(アウトグロー)といわれるが、成人喘息の場合はその頻度はきわめて低い。

 

)アレルギー反応の機序

 

ダニなどの抗原刺激に対応してIgE抗体が気管支粘膜の肥満細胞に結合する。ついで、同じ抗原とIgE抗体が反応すると、肥満細胞からヒスタミンやロイコトリエンなどの化学伝達物質(ケミカルメディエター)が放出され、平滑筋の攣縮・毛細血管の透過性亢進など、30分以内に気道収縮が出現する。そして68時間後に新たなアレルゲンの吸入がないのに、Th2細胞から放出されるインターロイキン(IL)5により好酸球が浸潤し、細胞内顆粒から細胞障害性蛋白(major basic protein)やロイコトリエン(LT)などが放出され、気道炎症(好酸球炎)が生じて気道の過敏となる。

 

)ロイコトリエン

 

喘息において強く長く気道収縮を持続するのはロイコトリエン(LT)である。ロイコトリエン(LT)はアラキドン酸の代謝産物である。抗原の侵入などの刺激により細胞膜のリン脂質から遊離アラキドン酸が生じる。リポキシゲナーゼの作用で好酸球や肥満細胞の細胞膜からCysLT(LTC4LTD4LTE4)が作られる。このうち気管支喘息の病態と深く関わるのはCysLTで、 CysLT1CysLT22種類の受容体のうち、CysLT1受容体を介して、@気管支平滑筋収縮作用、A気管支腺分泌促進作用、B血管透過性亢進作用、C好酸球走化作用、D気道過敏性亢進作用などの作用を及ぼす。

 

)発作時刻

 

臨床的には喘息発作は夜中の4時ごろが最も多く夜間発作性喘息(Nocturnal asthma)といわれる。概日リズム(Circadian rhythm)という考え方に基づくと、夜中の4時頃に最も自律神経の異常(副交感神経の亢進、交感神経の低下)が起き、喘息発作を生じやすくなる。また、夜中の4時頃にI型アレルギーの遅発相反応による気道炎症が起きるようである。

 

)予防

 

小児喘息は気道内径が狭い、粘液分泌が多いなどで2歳以下に発症することが多い(50)。アトピー素因を持った生体に何らかのアレルゲンが侵入してアレルギー反応が惹起され、さらに種々の誘因も加わって気管支喘息の発作が起こる。成人と異なり“アウトグロー”という治癒または寛解が高率(60%くらい)にみられる。非発作時の生活指導として吸入性、食事性アレルゲンおよび誘因を明らかにして、回避、除去するようにする。ダニ、ハウスダストはほとんどの患児で関与していると考えられるので、部屋の掃除、寝具の掃除などを充分に行う。また、ペットを飼うことは厳禁とする。このような環境整備に加えて、精神鍛錬や自立鍛錬(乾布・冷水摩擦など)も有用である。咳嗽のさい自律神経から分泌されるというサブスタンツPが自立鍛錬などにより、出にくくなるからと考えられている。成人喘息はアトピー型:非アトピー型が2:1で、自然治癒はきわめて少ない。気管支喘息は気道の好酸球性炎症で、気道過敏性も気道炎症の程度を反映するという前提で治療が行われる。