Th1/Th2細胞のバランスの乱れ

アレルギー疾患の発症の引き金といわれる

 

乳幼児への安易な抗菌薬投与が、花粉症やアトピー性皮膚炎といったアレルギー疾患増加の一因と考えられている。抗菌薬の過剰投与により免疫応答の発達が傷害されている乳幼児が増加しつつある。この免疫応答の基礎となっているのが、ヘルパーT(Th)1細胞とTh2細胞の拮抗作用、つまりTh1/Th2細胞バランスである。IFN一γなどのサイトカインを分泌するTh1細胞は感染防御とともにマクロファージを活性化する。IL-4IL-5のサイトカインを分泌するTh2細胞はB細胞から抗体を作らせる。通常、両細胞は相互にバランスを保ち免疫応答を制御しているが、何らかの原因でTh2細胞が過剰になるとカビやダニに対するIgE抗体が産生され、アレルギー疾患が生じる。一方,Th1細胞が過剰になると自己免疫疾患を引き起こすといわれる。

 

簡単にまとめると、ヘルパーT細胞は機能的にTh1型とTh2型に分けられる。Th1型は細菌やウィルスなどの異物を攻撃、破壊して感染を防御し、さらにマクロファージをも活性化する。Th2型はカビやダニなどに反応し、B細胞にIgE抗体を作らせる。この2つは、免疫全体のバランスを保つために互いにけん制している。つまり、Th2型がつくるサイトカインはTh1型の増殖を抑制し、Th1型のつくるサイトカインは、Th2型の活性を抑制する。従ってアレルギー疾患を防ぐためには、Th1型と2型のバランスが大切であることが理解できる

新生児の免疫反応はTh2細胞分化が優位であるが、成長に伴い環境から適当な刺激や細菌暴露により、Th1細胞分化が誘導され、Th1/Th2細胞バランスが確立される。ウィルスや細菌が感染するとマクロファージからインターロイキン12IL-12)が分泌される。そのIL-12Th1細胞に作用しINF−γを作り出し感染防御にあたる。同時にTh2細胞からのIL-4(IgE抗体を作る)IL-5(好酸球を作る)の分泌を抑制しアレルギー疾患の発症を抑える。戦後わが国では多量の抗菌薬やワクチン接種により、Th1細胞分化を誘導する細菌感染やウィルス感染が減少してしまった。例えば、結核に代表される近年の感染症の減少は、Th1細胞の誘導の機会を減らし、アレルギー疾患を増加させる一因と考えられている。

 

なお、抗菌薬の過剰投与による腸内細菌叢の破壊もTh1/Th2細胞バランス乱れの原因となっている。腸内細菌はTh1細胞の誘導物質であるが、無菌マウスを用いて行った実験によると、生後すぐに腸内細菌を投与した群ではTh1細胞が誘導されたが、非投与群では成長後もTh2細胞優位のまま推移したと報告されている。「免疫機構は、出生直後から2歳くらいまでに受ける刺激により確立される。この問に腸内細菌をはじめとするTh1細胞を誘導する物質を投与するか、安易な抗生物質投与を止め、腸内細菌叢を発達させる事により、アレルギー疾患の発症を回避できる」のではないかと考えられている。

 

Th1/Th2細胞バランスの機構の詳細については解明すべき点はまだ多いが、米国ではアレルギー疾患のみならず、癌やウィルス性疾患の治療に生かす治験も進行している。