ストレスとアレルギー

 

)ストレスとは

 

ストレスの語源は「物体を押したときにできる歪み」という物理学用語で、生体内のひずみの状態をいう。ストレス学説(stress theory)1936年カナダのセリエ(Selye)が物理的(大けが、発熱、寒冷、放射線、騒音)、化学的(薬物、中毒、O2不足)、生物的(細菌感染)などのストレス作因、または精神的(受験、手術、試合などの不安、恐怖)情緒ストレスが加わると、下垂体から副腎皮質刺激ホルモン(adrenocorticotropic hormone)が分泌され、これが全身に働いて一連の反応(全身適応症候群)が起こると唱えた。この説によるとストレスに対する生体反応は3つに分けられる。

 

)生体反応

 

1:警告反応期。ストレスにさらされた際の受身の障害あるいはショックの徴候(ショック相)と、これに対する積極的な防御の症候(反ショック相)がある。ショック相はステロイドホルモンの不足状態によるもので、代謝、交感神経系の働きが低下し体の抵抗力が弱まる。その後の反ショック相は一種の防衛反応で、ストレスに対抗するためにアドレナリンが副腎皮質から分泌され自然治癒力が働く。アドレナリンは心拍数を早くして、体温を上昇させ、からだを活動的にする。

2:抵抗期。さらにアドレナリンの分泌が増し、血糖値が高まる。血糖上昇がストレスと戦う生体機能のエネルギー源となり、ストレス作因に対する抵抗力となる。交感神経の緊張により心拍数が増加し血圧も上昇するが、緊張が長く続くと自律神経失調状態となり、不眠、食欲不振、疲労感や、時には腹痛、悪心、嘔吐を訴える。

3:疲労期。ステロイドホルモンの産生が減少して生体の適応の限界を越える。時には耐え切れないほどの強いストレスを受けると、精神状態がみだれ、低血糖や血圧低下というショック状態をひき起こすこともある。

以上を簡単にまとめると、人間にとってのストレスは、暑さ、寒さ、重力、痛み、光、音といったものから、不安や恐れ、退屈といった心身へのあらゆる刺激を意味する。人間は常に多くのストレスを受けているが、たいていのは無意識のうちに受け流して、解消することができる。ストレスは、血中のアドレナリンを上昇させ、血圧も上がり、心拍数も増加するが、緊張状態が次第に長く続くとしだいに身体の防御・免疫機能が低下し、自律神経失調症、アレルギー疾患の原因にもなる。

 

)自律神経、免疫との関連

 

人間の体の中で、自律神経と免疫機構、および内分泌系とは密接に関連しあっており、自律神経失調を発症するストレスは免疫機構にも影響が及ぶ。I型アレルギー(即時型)反応における喘息、花粉症は肥満細胞からの化学伝達物質の分泌とその後に起こる好酸球性炎症によって症状が悪化する。この好酸球性炎症はステロイドホルモンによって抑制されるが、ストレス状態が持続してステロイドホルモンが不足状態になるとアレルギー症状を悪化させる。

 

)ストレスとアトピー性皮膚炎

 

アトピー性皮膚炎は疲労、風邪などの肉体的ストレスや受験、就職などの精神的ストレスをきっかけに発病、悪化することがある。ストレスにより自律神経の不安定となりステロイドホルモンが不足ぎみとなる。また、ストレスは自律神経系や免疫系を乱すと同時に、痒みの中枢神経を刺激する。難治性のアトピー性皮膚炎に対しては、アレルギー的なアプローチのみならず、ストレスに対する治療も必要となる。アトピー患者にとって絶え間ない痒み、先行きの不安、絶望感などの精神的要因が加わると、さらにストレスが高まる。こうなるとステロイドホルモンの必要量が増すにもかかわらず、ホルモンが不足するのでさらに症状が悪化する。ストレスによる悪循環を断ち切るためには心身医学的な治療とともにステロイド薬の内服などの治療も必要となる。

 

)ストレスと蕁麻疹

 

文明が進むにしたがい、社会的ストレスが続き神経の休まヒマもない日々を送っている今日、原因不明の蕁麻疹に心身医学的な原因が推測される患者がある。精神神経の感動、不安などによりにアレルギー反応が起こることを精神アレルギーという。ストレスはアセチルコリンを分泌してコリン性蕁麻疹の原因となりうるが、慢性蕁麻疹においてはストレスがどのように関与しているかは不明である。

 

)ストレスの対処法

 

ストレスを減らすためにはまずストレスの原因を考え、同時に自分には現在ストレスがあるという認識が必要である。そして問題を抱えているのは自分だけではないと仕事や職場から少し距離おくとよい。自分自身でどこまで対処できるのかを自覚し、あまりがんばりすぎないこと。例えばイライラして仕事でミスが多い、眠れない、アルコールに依存し、過食するときはストレスの始まりである。集中力がなくなり、意欲も減退し、投げやりな気分も出てくるようなら医師の診察を受けるのがよい。疲労感、動悸、不眠などのストレス症状が続く時は精神科や心療内科と相談するとよい。

 

)まとめ

 

二十一世紀に増加する疾病として、生活習慣病、アレルギー性疾患、老人性疾患、ストレス病がある。いずれも日常生活のストレスと密接に関係している。ストレスは身体の防御・免疫機能を低下させ、内分泌系、精神神経系、内臓器系などの疾患に関連する。ストレスは、身体の不快感に泣き叫ぶ乳幼児から、死への不安からうつ病になる老年期までライフサイクルに応じて続く。現代社会では、それまで身につけた適応力では対処できずに、離婚や昇進などでも、うつ病になるケースが増えている。