アトピー性皮膚炎治療の自験例

 

アトピー性皮膚炎の原因や治療法は個人個人それぞれ異なるが、難治性と言われている顔面潮紅型について自験例を報告する。

 

症例1・・・35歳男。顔面の皮膚は肥厚し潮紅が目立つ。今まで使っていたステロイド剤を中止すると約1ヶ月間リバウンド現象が続いた。非ステロイド軟膏外用では症状が軽減されなかったので、ためしにボンアルファ軟膏(外用ビタミンD製剤、タカルシトール軟膏)を使用した。そうすると不思議なことに顔面の症状は劇的によくなり、全身の症状も改善された。患者に皮膚炎が悪化した原因を尋ねたところ、夫婦関係がうまくいかず離婚話が出て、かなりストレスがたまっていたとのことでした。その後二人は離婚し,患者は精神的にも落ち着いてあれほど苦しんだアトピー性皮膚炎が治った。

 

症例2・・・16歳女高生。長い間他医でステロイド剤を処方されていたため顔面は酒サ様皮膚炎を呈していた。ステロイド剤をやめ非ステロイド剤に変えたところリバウンド現象がひどくなり、学校へ行くのがいやだと言い出した。仕方がないのでステロイド剤内服を行い、症状が落ち着いたところでヒルドイドソフト(ヘパリン類似物質軟膏)を塗り始めた。表皮が剥脱していた顔面の皮膚はすべすべとなり、赤味も減ってきて、痒みもなくステロイド軟膏から離脱できた。患者に皮膚炎の悪化因子を尋ねたところ生活が不規則で夜更かしが続いたことや、ポテトチップなどジャンクフードの食べすぎではないかとのことであった。体の一部に掻痒感のある皮疹が残っているが、全体的にはかなりよくなった。この症例は治療方法、現在の皮疹の状態など詳しく説明し、根気よく治療を続け、医者と患者の信頼関係がうまく保たれたので皮膚炎がよくなったと考えている。

 

症例3・・・27歳男。高校生の頃までは皮膚炎が落ち着いていたが、東京の大学に入学し自炊するようになってから症状が悪化した。生活のリズムが不規則になると皮膚炎は悪化するようであった。非ステロイド軟膏を塗ったりしていたが、時々顔面が赤くなりジクジクして分泌液がひどくなったときにはステロイド剤の内服を行った。卒業後は実家戻ってきたが、就職難ということもあり定職につかなかった。アルバイトなどで生活が安定すると症状が改善し、仕事がなくて気分的にイライラすると皮膚炎が悪化した。顔面に分泌物も多くなると、就寝中に無意識に掻きこわすため浮腫状を呈することもあった。種々の軟膏をためしたがすべて無効でステロイド剤内服も効果なかった。ためしにイソジン液で消毒しゲンタシン軟膏を塗り始めたら症状が改善されジクジクした分泌物もなくなった。その後、顔面は紅班が改善され痒みもない。但し,体の皮膚炎は残っておりステロイド軟膏を使用しながら様子も見ている。この症例の増悪因子は精神的なイライラと、他人に対する依存心が強いため自分自身で何とか皮膚炎を克服したいという気持ちが欠けていた。

 

一般にアトピー性皮膚炎の顔面潮紅型は治療が難しく、ステロイド離脱によるリバウンドも強いため、患者の医者に対する不信感は根深いものがある。患者の現在の症状と治療方法を説明して根気よく治療を続ける事が大切で、顔面潮紅の悪化因子をなくすように務めたい

 

プロトピック軟膏の使用例

 

症例4・・・28歳男。学生時代までアトピーの症状はまったく無かった。卒業後コンピューターのソフト会社に就職してからアトピー性皮膚炎が現れた。近医でステロイド軟膏の治療を受けていたが、症状は一進一退で顔面は酒サ様皮膚炎を呈した。当院ではステロイド軟膏を中止しリバウウンド現象に悩まされ、いろいろな治療(先ほど述べた非ステロイド軟膏,ボンアルファ軟膏、ヒルドイドソフト、イソジン液消毒とゲンタシン軟膏の外用など)を試みたが改善しなかった。顔面の一部はジクジクしていたがプロトピック軟膏を使用したところ1週間ぐらいで効果が現れ、約3週間で紅班は殆ど消失した。最初の2日間はヒリヒリした刺激感があったがその後は副作用もない。ただし、体の一部に皮膚炎が残っている。

 

症例5・・・25歳男。以前よりアトピー性皮膚炎で治療を受けており、プラスチック成型工場に勤務。約1年位前より自分自身で勝手にリンデロン軟膏を顔面に塗っていたため、リバウンド現象が強く現れ、顔面の潮紅がひどくなった。イソジン消毒とゲンタシン軟膏である程度はよくなったが、熱感と瘙痒感が残っていた。そこで発売されたばかりのプロトピック軟膏を使用したところ約2週間で赤味が消え瘙痒もなくなった。

 

症例6・・・25歳女。病院の事務。アトピー性皮膚炎の治療中で、当直後は顔面の紅班と落屑を伴う瘙痒性皮疹がひどくなった。アンダーム軟膏,ヒルドイドソフト,ボンアルファ―軟膏などは無効であった。プロトピック軟膏を使用したら約1週間で赤みがなくなった。患者の話では顔面の紅班が消えすっきりした気分となったという。

その後、約100例ぐらいにプロトピック軟膏を使用し、かなりの治療効果をみている。副作用としてはヒリヒリした刺激症状があるが、じきに無くなる。