スギ花粉症
1)はじめに
花粉症は原因となる花粉が地域により異なる。北欧ではシラカバ,北米ではブタクサ,イギリスではオオアワガエリが原因となる。わが国では北海道と沖縄をのぞくとスギが問題となっている。スギ花粉症は1964年に斎藤洋三先生がスギ並木で名高い栃木県日光市において発見した。スギによる花粉症は日本固有のもので、対策が遅れているため患者数は1300万人に達する。また根本的な治療法は確立されていない。スギは日本特産の常緑の針葉高木で,名前の由来は真っすぐにすくすくと育つという意の「直木」である。葉は小さく,鎌のような針形で,らせん状に密生する。雌雄同株で(右図,開花時のスギ雄花)花はマツと同様,花粉が風に運ばれ受精する「風媒花」である。
2)植生分布
スギは日本の特産で全国各地に自生するが,普通は植林されたものが多い。天然生のスギは北海道,沖縄には見られず,水平分布の北限地は青森県西津軽郡矢倉山,南現地は屋久島の南部山地である。本州,四国,九州に広く分布している(右図,スギの主な植生分布)。天然林として秋田スギ,吉野スギは有名である。鹿児島県屋久島の原生林には高さ65mにも及ぶ縄文杉があり,樹齢数千年といわれる。植栽地は年平均気温が10〜14C,年間降雨量が3,000mm以上の土地が気候上最適といわれ,戦後各地にスギが植林された。人工造林面積は,昭和29年をピークに年々減少し,同じくスギ素材生産量,スギ苗木生産量,スギ造林面積も年々減少している。
3)花粉飛散分布
毎春になるとスギ花粉症がマスコミに取り上げられ,いまや季節病の代名詞として多くの人々を悩ませている。スギ林面積は年々減少しているにもかかわらずスギの花粉飛散数が年々増加している。「木の文化」を築き上げてきた日本の林業が元気を無くして,すでに久しい。住宅の建築様式の変化や外材の大量輸入などで木材価格が低迷,現場の意欲もそがれ,スギ林は間伐,枝打ちなどの保有作業が行われなくなった。そのため野放しの状態で放置されたスギから多くの花粉が放出されるようになった。スギ花粉分布は関東で最も多く観測され,スギ植生分布密度とは必ずしも一致しない(右下、スギ花粉飛散分布)。煙害に弱いスギは都市部では枯れやすく,枯渇直前のスギは大量の花粉を放出するといわれ,こうした大気汚染も関連があるようだ。
4)スギ花粉飛散数と気象
スギの花芽は前年の6月頃から分化し,9〜10月に成熟する。3〜4月頃,枝の先に淡黄色の雄花を穂状につける。雌花は球形で緑色。スギの花粉は雄花の中にあり,早春の開花期に大量に生産され,風媒花粉として遠くまでまき散らされ,花粉症を引き起こす原因となっている。花粉の生産数は雄花芽の多寡により左右され,7月の平均気温が平年値より1C以上高値を示すとスギの雄花芽の分化が活発となり,翌年のスギ花粉飛散数が著しく増加する。スギ花粉は九州南部では2月上旬から飛び始めるが,花粉前線はその後次第に北上し,東北地方北部においては4月上旬が飛散開始に相当する。