乾燥肌(ドライスキン)

 

)皮膚のうるおい

 

健康でうるおいのある肌は、皮膚表面の角質層に水分がしっかりと保有されている状態で、外からの刺激を防御し、体内の水分が失われないようにするバリア機能がある。皮膚最上部にあるケラチン蛋白を含む角質層が防波堤となり、外からの異物をシャットアウトし、皮膚表面を覆っている弱酸性の皮脂膜が細菌の繁殖を抑えている。健康な皮膚は角質細胞間に脂質(セラミド、脂を含んだ水分)が含まれ、この水分を逃がさないように皮脂膜が皮膚表面を覆っている。皮脂膜は毛孔と呼ばれる毛穴から分泌される皮脂と、汗腺から出る汗が混じり合ってできる薄い膜で天然のクリームとも呼ばれ、皮膚を保護する。

皮膚のうるおいは皮脂(皮膚表面の脂膜)、天然保湿因子(アミノ酸、尿素など角質層内の水溶性物質)、角質細胞間脂質(セラミド)という3つの物質によって一定に保たれている。皮脂腺から排出される皮脂の量は女性では40歳〜50歳頃から、男性では60歳頃から急激に低下し、皮膚がカサカサしてくる。天然保湿因子は皮膚に柔軟性を持たせる水溶性物質であり、角質細胞間脂質は間隙からの水分蒸発を防いでいる。これらの物質が減少すると外からの防御能が低下する。

 

)ドライスキン

 

ドライスキンとは皮膚最表層(角質層)に含まれる水分量が減少して皮膚が乾燥した状態をいう。角層水分量は皮脂や角質細胞間脂質により保持される(角層水分含有量という)ので、保湿成分が減少する老人や、入浴時の過度の洗浄、長時間入浴などによってもドライスキンになる。また、角質水分量は発汗や外気に影響されるため、冬季・過暖房によりドライスキンが悪化する。

皮膚の乾燥は、身体の部分によっても違いがあり、手や腕、太もも、すねなどの四肢が乾燥しやすい。ドライスキンではバリア層に隙間ができ、隙間から水分が蒸発(経表皮水分喪失という)してカサカサした鱗屑ができる。この鱗屑がズボンやストッキングに触れると痒くなり、掻きこわすと鱗屑がはがれて皮膚はバリア層のないむき出しの状態になる。こうなるとちょっとした刺激にも過敏に反応し、水分はさらに蒸発し…という悪循環になる。

 

)皮膚の瘙痒感

 

皮膚には“かゆみ”を感じる受容体があり、物理的および化学的刺激が表皮・真皮接合部に存在する神経終末(“かゆみ”の受容体)に作用し、知覚神経(C線維)により中枢へ伝えられ“かゆい“と感じる。C線維は病的な状態では表皮内にまで侵入しているので、ドライスキンのように角層のバリア機能が傷害されていると、少しの刺激でも直ちにC線維に伝えられ痒くなる。これを“瘙痒感”の閾値が低下したという。

痒みを起こす物質(起痒物質)としてヒスタミン、アセチルコリンなどがあり、湿疹、蕁麻疹の際に分泌されて、“かゆみ”を感じる。ヒスタミンは体内では肥満細胞で作られるが、食品の中にヒスタミンを含有するもの(サトイモ、ヤマイモ、タケノコ、ホウレンソウ、ナスやソバ)があり、それらを食べるとからだが痒くなることがある。また、ヒスタミン遊離作用を有する食品(トマト、イチゴ、サバ、マグロ、サケ、タラ、イカ、タコ、エビなどの魚介類、豚肉、サラミの肉類、チョコレート、ビール、ワインなど)でも同様の症状が見られる。なお、アルコール・香辛料は血液循環がよくなるので痒くなりやすい。

 

)乾燥性皮膚疾患

 

(1)皮脂減少性湿疹:年齢を重ねるにつれ皮膚表面のうるおい成分である皮脂分泌が低下し、皮膚が乾燥してくる。特に冬季では空気の湿度が下がり発汗も減少するので、カサカサした皮膚は粉をふいた状態となり痒みを増し、掻きこわして湿疹を生じる。

  (2)アトピー性皮膚炎:アレルギー要因と非アレルギー要因があり、それぞれに遺伝的体質と環境要因があると考えられている。

アレルギー要因

遺伝的体質

アレルギー体質

環境要因

食べ物、ダニ、花粉など

非アレルギー要因

遺伝的体質

乾燥肌(ドライスキン)

環境要因

乾燥、汗、引っ掻くこと

乾燥肌(=ドライスキン)は遺伝的体質として角質細胞間脂質が不足しているため間隙の水分が蒸発し、角層がめくれあがった状態になりやすい。そして表皮下の真皮にあるべきC線維が表皮内に伸びるので、痒くなり、掻破することにより湿疹が悪化する。

(3)進行性指掌角皮症20歳前後の女性で、特に結婚・出産などで急に水仕事が増えた機会に発症する。手の指(指の腹の部分)がカサカサと乾燥し、ひび割れを生じる。ひどくなると指紋がなくなることもある。利き手のほうに症状が強く現われ、冬になると増悪し、夏は軽快する。原因としては皮膚アルカリ中和能の低下、汗分泌低下に加えて水・洗剤・機械的刺激による接触皮膚炎と考えられている。

(4)足蹠角皮症(かかとのひび割れ):足のかかとは体重を支える場所で、皮膚の角質が肥厚している。肥厚した角質では体内から浸透してくる水分が、外側の角質まで充分に行き届かないので、表面が乾燥した状態となり、ひび割れ(亀裂という)を生じる。

(5)小児乾燥性湿疹:皮膚の乾燥した幼小児の体幹(おなかと背中)に、毛穴(毛孔)に一致した粟粒大の小丘疹が多発し、鳥肌のように見え、瘙痒が激しい。秋から冬にかけ増悪する。アトピー性皮膚炎の症状の一つとして見られることもある。

 

)ドライスキンの治療

 

角質層の水分の増加と保持を目的として保湿剤の外用が主となる。保湿剤で“かゆみ”が改善されない場合は、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、マイナートランキライザーや漢方薬が使われる。さらに、これらの薬物療法とともに、皮膚乾燥、“かゆみ”の助長・増悪因子を排除するための生活指導が行われる。

(1)保湿剤 humectant

保湿剤は皮膚の表面に脂膜を作り、水分の蒸散を防いで、角質層の水分量を増加させ乾燥状態を改善する。水分で皮膚を少し湿らせた後や、入浴直後の皮膚が乾ききっていない状態で塗布するのがよい。

白色ワセリン:皮膚の表面に脂膜を作り、水分の蒸散を防ぐ。

尿素製剤:角層の保湿能力を高め、皮膚に粘滑性を与えるが、時に尿素の刺激作用のためヒリヒリ感がある。

ヘパリン類似物質製剤:ヒルドイド軟膏

ビタミンA、ビタミンE含有軟膏:ザーネ軟膏

(2)副腎皮質ステロイド外用剤

保湿剤だけでは効果が得られずに、掻破により二次的に湿疹化した皮膚には、炎症を抑えかつ瘙痒を抑えるためにステロイド外用剤を使う。

(3)内服療法剤

内服療法としては、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー剤、精神安定剤、抗うつ剤などが使われる。

(4)日常生活の指導

(a)暖房器具のなかでもエアコン、電気毛布、ホットカーペットなどの電気器具は、室内を乾燥させるので、それらの使いすぎをセーブし、加湿器やぬれタオル、湯たんぽなどで加湿する。ただし、加湿器はカビが生えやすいので注意すること。

(b)ぴったりと長めの下着で、特に膝から下をおおえば乾燥を防ぐことができる。下着は(刺激の少ない保湿性の高い)木綿製のやわらかい肌着を使用するとよい。

(c)入浴時には洗浄力の強い石鹸を避け、こすり過ぎて皮膚の皮脂を取りすぎないことや、熱いお湯に長く入らないこと(熱いお風呂に入ると、痒みがひどくなる)が大切である。ナイロンタオルを使ったり、ゴシゴシ洗ったりするのは角層を傷つけ、肌に刺激を与えるので、石鹸を泡立て身体を静かに洗ってからお湯で洗い流すのがよい。保湿剤入りの入浴剤(バスキーナ)の使用もお奨めです。そして風呂上りには、カサカサした部分に保湿剤を塗る。

(d)食事ではアルコール・香辛料の強い料理は控えめにする。