common skin disease (ありふれた皮膚疾患)

私の治療法

皮膚科領域では日常よく見られる皮膚疾患であるが、治療法が一定でなく治療にてこずる皮膚病が少なくない。アトピー性皮膚炎や蕁麻疹の治療法については既に述べてあるので、脂漏性皮膚炎や手皮膚炎などいくつかの疾患について日頃から私が行っている治療法について書きます。

脂漏性皮膚炎・・・頭部、顔面、躯幹のいわゆる脂漏部位や耳後、腋か、ソ径部などの間擦部位に好発する。頭皮の落屑は一般に「ふけ」と呼ばれる。ふけは痒みを伴い外見上も他人に不快感を与えることが多く、なるべくふけを少なくするように努力する必要がある。まず、洗髪を十分に行い、副腎皮質ホルモンローション製剤(デルモベートスカルプ、リンデロンVGローションなど)をすり込む。日常生活としては過度のアルコールや脂肪の摂取を慎み、痒みの強い時は抗ヒスタミン剤を内服する。顔面の皮疹に対しては原則としてステロイド軟膏は使わないが。他医でステロイド軟膏を処方されている場合は、保湿剤や非ステロイド軟膏に変えるとステロイド軟膏中止後のリバウンド現象が出るので、患者さんによく説明してから一時的にステロイド剤の内服で炎症を抑える。顔面の皮疹に対し私は非ステロイドのアンダーム軟膏、ボンアルファー(ビタミンD軟膏)、ヒルドイドクリームなどいろいろな治療を試みた。最近ではアトピー性皮膚炎で用いられるプロトピック軟膏の外用でかなりよい結果が得られている。また、数年前から脂漏性皮膚炎の治療として抗真菌剤の外用(ニゾラールクリーム)が保険の適用となり、非ステロイド軟膏のみではなかなか治りにくい症例で抗真菌剤を使用したこともあった。教科書的にはビタミンBの内服がよいとされているがビタミン剤の内服は気休め的なものと考え私は処方していない。

手皮膚炎・・・湿疹病変が手掌や手背、手指に限局した場合に用いられる病名。普通の湿疹病変を構成する紅班、丘疹、小水疱、鱗屑、痂皮、苔癬化などからなるものを手皮膚炎または手湿疹と呼び、より角化性変化が強く、皮膚面の乾燥、粗糙化、亀裂、特有の光沢、指紋の消失などの変化を主体としたものを進行性指掌角皮症(KTPP)といっている。手皮膚炎には水、洗剤、機械的刺激などの刺激による接触皮膚炎、皮膚アルカリ中和能の低下、汗の分泌低下などの原因が考えられている。いわゆる主婦湿疹は家事に従事する人の手に接触皮膚炎による貨幣状湿疹型の病変を生じたものをいう。左官屋さんの手によく見られるセメント皮膚炎などは職業性接触皮膚炎である。これらの手皮膚炎に対しては痒みの強い場合はステロイド軟膏を使用し、日中は保湿剤の外用で手を保護するとよい。進行性指掌角皮症も同じ治療法でよい。私の感じでは最近は発汗異常による手皮膚炎が多いように感じる。これは異汗性湿疹といわれ、多汗症の人の手掌に汗がたまり(汗泡という)、その汗泡の表面がふやけて表皮が剥離し、皮膚表面のバリアがこわされてものをいう。この異汗性湿疹はアトピー性皮膚炎に多く見られるが、これはアトピー性皮膚炎の人は全身の皮膚は乾燥肌で汗が出にくいため、そのぶん手掌、足蹠に汗が出やすい状態となるためと思う。この汗泡による手皮膚炎に対しては一日4ないし5日保湿剤(ヒルドイドクリーム、ウレパール)を塗るようにしているが、接触皮膚炎が加わりかゆみの強い時はステロイド軟膏を使用する。異汗性湿疹の場合はゴム手袋の使用は手掌の皮膚がむれて悪化することが多い。なお、まれに白癬菌による手白癬が見られるので、皮膚炎の治りにくいとき、痒みの強い時は真菌の顕微鏡検査が必要です。

尋常性痤瘡・・・いわゆる「にきび」で思春期に発症したものは比較的治りやすいが、思春期後に発症した患者さんはしばしば難治性になることがある。これらの患者さんのにきびは口の周りや下顎に発生し膿疱を伴うことある。化粧品、食べ物、睡眠不足、便秘などいろいろの増悪因子が考えられているが、ホルモンアンバランス(高アンドロゲン)があるといわれている。「にきび」の治療は外用と内服の療法が必要です。外用としてはイオーカンフルローションがよく、ゲンタシンクリームやアクアチムクリームなどの抗生物質軟膏も併用する。私のところでは夜はイオーカンフルローション、朝は抗生物質軟膏の外用を勧めている。「にきび」というのは貯留した皮脂ににきび桿菌という細菌のリパーゼにより遊離脂肪酸が形成されて炎症反応を生じるもので、それらの細菌を抑える抗生物質(ビブラマイシン、ミノマイシン)の内服が必要です。これらの薬剤はあまり副作用はないが時に、めまい、胃腸症状のほか日光過敏が現れることがある。私はジオール、メサルモンFなどのホルモン剤は処方していない。

伝染性膿痂疹・・・いわゆる「とびひ」。最近は暖房が進んできたためか冬にもとびひが見られる。虫刺されを引っ掻いたり、鼻前庭部の滲出物をいじったりしてからとびひになる。原因菌として大部分は黄色ブドウ球菌で、ブ菌が表皮表層で細胞解離を来たし水疱を形成する。このため軟膏の外用のみならず抗生物質の内服が必要です。抗生物質はセフェム系で充分だが最近はこれらに耐性のとびひが増えている。この場合はミノサイクリンを処方するが短期間で止めるべきです。外用薬としては抗生物質含有したステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏)を一日5回ぐらい(朝、午前、午後、夕方、入浴後)塗るようにする。滲出液がひどい時はガーゼで病変部を覆い、入浴時は石鹸を使いながらシャワーでよく洗う。予防として早めに虫刺されを治療したり、鼻水が出た時も早めに鼻をかむこと、爪を短く切ることが大切です。

掌蹠膿疱症・・・手掌、足底に対側性に無菌性膿疱を多発し紅班、落屑が見られる慢性難治性疾患である。周期的に皮疹の消長が見られ、関節症を伴うこともある。原因は不明であるが、病巣感染アレルギー、歯科金属アレルギーなどが考えられており、喫煙も増悪因子となるようである。局所療法としてはステロイド軟膏、ビタミンD軟膏の他に皮膚の乾燥を防ぐために保湿剤(ヒルドイドクリーム)を位置に数回を塗るとよい。病巣感染を疑われる症例では全身療法としてはパスパートの注射、内服療法としては、ミノマイシン、消炎酵素剤を適宜用いる。治りにくい患者さんにはこの病気の原因はまだよくわからないこと、根治させる確実な治療法はないこと、人に伝染することはないこと、長期的な治療が必要であることなどを説明し、納得してもらっている。免疫抑制剤の使用経験はない。

帯状疱疹・・・帯状疱疹は、水痘、帯状疱疹ウィルスの再活性化によって発症し、一定の神経支配領域に一致した小水疱の集簇多発と神経痛を特徴とする。治療方針としては痛みに対してと、皮疹に対しての治療を分けて考える。痛みに対してはポンタール、ジソペインなどの内服と、ボルタレン座薬を用いる。皮疹に対しては抗ウィルス剤軟膏よりもステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏)のほうが、消炎効果があると考えている。内服剤として抗ウィルス剤(ゾビラックス)を処方することはない。症状がひどい時は短期間ステロイド剤(プレドニン)内服のほうが効果的である。抗ウィルス剤は薬価があまりにも高すぎると思う。私のところでは患部に赤外線照射を行い、鎮痛剤注射(ザルソロイチン)行い痛みの軽減をはかっている。疱疹後神経痛の予防としては早期から鎮痛剤の投与を行うのがよいが、痛みが軽減しない時は速やかにステロイド剤内服で消炎効果を狙ったほうがよい。

単純疱疹・・・単純ヘルペスウィルス(HSV)の感染による。口唇ヘルペス、顔面ヘルペス、ヘルペス性歯肉口内炎、性器ヘルペス、ヘルペス性瘭疸(ひょうそう)、カパジ水痘様発疹症などがある。口唇ヘルペスなどは診断を間違えることはないが、ヘルペス性瘭疸、四肢の小水疱の集簇などを湿疹と誤診されていることが少なくない。治療法としては局所にはステロイド軟膏(リンデロンVG軟膏)、全身療法として数日間ゾビラックス剤を投与する。軟膏療法のみでは治癒までに時間がかかる。また、単純ヘルペスは発熱、紫外線、寒冷、疲労、ストレスなどの影響で、潜伏ウィルスが活性化されるので、それらに対するアドバイスも必要である。

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