免疫について

 

免疫(immunity)とは読んで字の如く“病気から免除される”ということで、ラテン語のimmnitasに由来する。病気から免れるとは、生まれ持った抵抗力で病気にかかりにくい(自然免疫)こと、ある病気にかかればニ度と同じ病気にかからない(獲得免疫)ことを意味する。昔から二度と同じ病気にかからない現象は“二度なし現象”として知られていた。1789年、E.Jennnerは牛痘(cowpox)に感染した牛の乳を搾っている娘たちが、天然痘(smallpox)に罹りにくい(免疫になる)ことを見出した。90年後、L.Pasteurは鶏コレラの研究中、毒素を薄めて注射すると感染しないことを証明した。彼はJennerの考案した牛痘種痘法の偉業をたたえ、接種する弱毒性微生物をワクチンと呼んだ。その後、L.Pasteurは炭素菌、狂犬病などの弱毒ワクチンを作製し、ワクチン接種による感染予防を証明して免疫の概念を打ちたてた。

 

1)抗体

 

免疫は病気に対する抵抗性の獲得と理解されていたが、免疫が特異的な物質(抗体)との反応によることを見出したのはBehring、北里(1890年)である。彼らは破傷風の毒素を動物に注射し、その動物の血清を破傷風に感染した他の動物に注入したところ、その血清は破傷風の毒素を中和し劇的な治療効果が認められた。この実験結果から免疫の実体が血清中の抗体によることが明らかとなった。また実際の病気にならなくても、受動的にその病気に対する抗体を投与されるだけでヒトはその病気に対する抗体を得ることもわかった。

 

2)自然免疫、獲得免疫

 

ヒトはおびただしい種類のウィルス、細菌、カビ、寄生虫などの感染にさらされている。しかしふつうに抵抗力のある人では、たとえ感染が起こったとしても大部分は自然免疫により短期間で治癒する。自然免疫の要素として、皮膚、眉毛、鼻毛などの物理的バリアや、皮膚、粘膜、鼻汁、唾液からの分泌物がある。特に皮膚は重要で皮膚の皮脂や汗の殺菌作用が大きなホコリや塵、多くの微生物感染を抑える。涙や唾液も自然免疫の構成要素で、分泌液に強力な殺菌成分が含まれている。ウィルスなどの微生物が物理的バリアを突破し体内に侵入した時には、マクロファージ、好中球などが微生物を貪食して排除する。同時にNK細胞もウィルスなどに感染された細胞を攻撃して感染の拡大を食い止める。しかしウィルスなどが自然免疫を撃破してさらに増殖し続けると、今度はリンパ球が活動し始める。Tリンパ球はヘルパーT細胞、キラーT細胞、サプレッサーT細胞に分化し、キラーT細胞がウィルスを攻撃する。加えてB細胞(形質細胞)から作られた抗体がウィルスを中和、無毒化する。この抗体は「獲得免疫」といわれ終生ヒトのリンパ球に記憶される。なお獲得免疫を得るにはワクチン接種でもよい。

 

3)免疫の段階的防御システム

 

1次:眉毛や鼻毛、皮膚、粘膜、鼻汁、唾液など…皮脂や汗には殺菌作用がある

2次:好中球やマクロファージ、NK細胞など…熱が出て、筋肉や関節が痛くなる

3次:T細胞やB細胞、抗体など…免疫反応により侵入した細菌やウィルスを撃退する

 

4)アレルギー

 

初めは生体防御機能を「免疫系」と呼んだが、その後は自分と自分でない異物を識別して異物の侵入を監視し、排除しようとする機能であると分かってきた。免疫の機能が過剰になったりすると身体に深刻な被害を及ぼすこともある。免疫系が身体に不利に働く総称がアレルギーであり、自分を異物と誤ると自己免疫疾患が起こる。人体を構成する細胞は染色体上に「自分」を示す「HLA抗原」を持ち、免疫系はこれをもとに、自分と異物を識別する。骨髄移植の成否を決める提供者と患者の適合性となるのもこのHLA抗原である。ただし、自分と異物を厳密に識別にもかかわらず、口から摂取した食物は異物と識別しないなど、あいまいな一面もある。