アレルギーとは

1)アレルギーとは

アレルギー(allergy)というのは抗原感作による生体反応の“変化”と言う意味で、ラテン語のallos(変わってしまった)とergon(反応、作用) の合成語である。アレルギ−には主に次の3つの反応がある。

アレルギー:免疫(immunity)…防御の働き(形質細胞由来のIgG抗体)

       :アナフィラキシー(anaphylaxis)…過敏症(Th2細胞由来のIgE抗体)

    :遅延型アレルギー…感作リンパ球による細胞性免疫

免疫は疫(病気)を免れるという意味で(例えば、はしかに罹患した後、はしかに対して終生免疫ができることなど)、形質細胞由来のIgG抗体の働きで病気に対する抵抗性を得ることをいう。IgE抗体は2型ヘルパーT(Th2)細胞から分泌されるインターロイキン4(IL-4)によりB細胞から作られる。IgEは肥満細胞のレセプターと結合し、細胞表面に結合する。再び同じ抗原が体内に入るとIgE抗体と反応(アレルギー反応)して、肥満細胞からヒスタミンなどの化学伝達物質が放出される(即時型アレルギー反応)。IgG抗体とIgE抗体は液性抗体とも呼ばれ、血清検査で測定できる。一方、細胞性免疫は感作リンパ球の作用で遅延型アレルギー反応を惹き起こし、例えばBCGを接種して結核菌に対する免疫を獲得したり、接触皮膚炎などでは局所に紅班、水疱などを生じる。細胞性免疫は感作リンパ球にあるので、皮内反応(ツベルクリン反応など)でのみ検査できる。

以上のように、アレルギーは免疫(immunity、防御)、アナフィラキシー(anaphylaxis、過敏)を意味するが、現在では生体防御に働くべき免疫現象が過剰な反応を起こし、自己に障害を与える状態をいう。過敏症(hypersensitivity)と同義であり、有害な免疫反応(adverse immune response)といえる。アレルギー反応によって惹き起こされる病気をアレルギー疾患と呼び、主なものとして、花粉症、喘息、アトピー性皮膚炎、蕁麻疹などがある。花粉症、喘息にはIgE抗体が関与し、アトピー性皮膚炎にはIgE抗体と細胞性免疫が関与する。なお、蕁麻疹は抗原抗体反応が起きる際にIgE抗体は関与しない。

2)アレルギー反応について

第I相:抗原刺激に対応して肥満細胞上にIgE抗体が結合する。

II相:抗原とIgE抗体が反応し、肥満細胞からヒスタミン・SRS-A(slow reacting substance of anaphylaxis;その本態はロイコトリエン)などの化学伝達物質(ケミカルメディエター)が放出される。

III相:化学伝達物質により平滑筋の攣縮・毛細血管の透過性亢進などのアレルギー症状が出現する(即時相反応という)。

VI相:即時相反応から数時間後に、好酸球が浸潤し、細胞内顆粒から細胞障害性蛋白(major basic protein)が放出され組織を傷害する(好酸球炎、遅発相反応という)。

3)アトピーとは

一般に過敏症は抗原と抗体が反応して生じるが、1923年 Coca とCookはimmunologic mechanism responsible for hay fever and asthma with hereditary cause (遺伝的な原因を持つ枯草熱や喘息を惹き起こす免疫学的メカニズム)により“生まれつき”の過敏症があると主張した。すなわち、遺伝的素因を持ち、一般の健常人では見られない条件の下で感作され(例えば食物、家塵、ダニなどに対して特異的に誘発される)やすい素因で、この過敏症の患者血清を正常人に移すことができるが、抗原(アレルゲン)と患者血清を反応させても沈降反応がみられないなど当時の常識では奇妙な性質を持っていた。そこでCocaらはこの素因は今までの疾患概念では説明が出来ない(場所がない)という意味で、atopyと名付けた。atopyとはa(無い)とtopia(場所)の合成語である。

4)IgEについて

アトピー素因の持つ抗体に関しては、次に述べる学者たちの研究によって発見された。ドイツの衛生学者Prausnitzは魚アレルギーを持つ婦人科医Kustnerの血清を自分の皮膚に注射し、翌日魚の抽出液を同じ部位に注射した。数分後その部位の皮膚は赤くはれ上がり、患者の血清にアレルゲンと反応してアレルギーを起こす抗体(レアギン)が存在することを証明した(現在ではP-K反応と呼ばれる)。そして、1966年石坂公成、照子両博士のグループがレアギンを免疫グロブリン(IgE抗体)と同定し、IgE抗体は肥満細胞の表面に結合している(感作状態と呼ぶ)ことを証明した。

5)アトピー素因について

単球・マクロファージがウィルス感染や細菌感染に反応すると、インターロイキン12(IL-12)を分泌するが、そのIL-12はTh1細胞に作用してINF-γを産生する(形質細胞が反応する場合は、IgG抗体が作られ、免疫に関与する)。そのINF-γはウィルス感染を防御すると同時にTh2細胞からのIL-4、IL-5の分泌を抑える働きをする。健常人はTh1細胞とTh2細胞のバランスが保たれているが、アレルギー患者ではダニ、スギなどがT細胞を刺激すると、INF-γを代表とするTh1タイプのサイトカインではなく、IL−4、IL-5などのTh2タイプのサイトカインを産生する。すなわちアレルギー反応の第I相で感作Tリンパ球がTh1(T helper-1)とTh2(T helper-2)細胞に分化する際、Th2細胞からインターロイキン4(IL-4、IgE抗体を作る)とIL−5(好酸球を浸潤させる)が分泌される。このようにアレルギー患者はTh2細胞へ分化しやすい(Th1/Th2細胞のアンバランス)素因といえる。

遺伝的素因を持ったヒトに発症するIgEを介して惹き起こされる疾患をアトピーと呼び、アトピー素因を持つ人は家ダニや花粉といった環境中の抗原(アレルゲン)に対してIgEを容易に産生する。そして正常人ではほとんど起こさない程度のごく微量の抗原に触れただけでアレルギー反応を生じる。アレルギー疾患はいくつかが合併することも少なくない。例えばアトピー性皮膚炎と小児喘息が合併した場合、アトピー性皮膚炎が悪化すると喘息が軽快し、その反対に、アトピー性皮膚炎がよくなると喘息発作が頻発し増悪する例もある。吸入抗原による喘息と花粉症の合併例もみられる。

5)遅延型アレルギー反応

皮膚科で見られるアトピー性皮膚炎や接触皮膚炎などは遅延型アレルギー反応で発症する。抗原と抗体(感作リンパ球)が反応してから24ないし48時間後に症状が出る。ただし、アトピー性皮膚炎は遅延型反応で皮膚症状が生じるが、同時に食物、家塵、ダニなどに対するIgE抗体を持ち、I型アレルギー反応も関与することが特徴的である。アトピー性皮膚炎を除けば多くのアレルギー性皮膚疾患は、一定の物質に感作成立した後、同じ物質に再接触してアレルギー反応が生じたもので、いわゆるアレルギー体質またはアトピー素因によるものではない。患者がよく口にする「私はアレルギー体質だから」というのは間違いで、たまたまある物質に後天的に過敏になりアレルギー反応を呈したということである。