アトピー性皮膚炎の診断と治療

)発症要因と病態

アトピー性皮膚炎は遺伝的体質と環境因子が絡み合って発症し,さらに人間の複雑な心理を反映した奇妙な疾患である。ダニ、動物の毛、化学物質などに過敏で、痒くなると掻きこわして皮膚炎を悪化させる。いわゆる「痒み一掻破の悪循環」を形成する。皮膚はカサカサしてバリア機能を喪失し、潤いのない乾燥肌となる。これは角質細胞間にあるセラミドという脂質の減少による水分保持能が低下したためで、これによりさらに痒みを増す。環境因子である乾燥、発汗や職場環境、睡眠不足、過労などの心理的ストレスなどによっても、皮膚炎は悪化する。

)診断

)定義(概念)(日本皮膚科学会)

アトピー性皮膚炎とは、「増悪・寛解を繰り返す、瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患で、患者の多くはアトピー素因を持つ」と定義されている。アトピー素因とは、家族歴あるいは既往歴に気管支喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎のいずれかまたは複数の疾患があるもの、またはIgE抗体を産生しやすい素因をいう。

b)アトピー性皮膚炎の診断基準

@瘙痒、

A特徴的皮疹と分布…皮疹は湿疹病変で、急性と慢性病変がある。

   …分布は左右対称で、前額、口囲、口唇、耳介周囲、頚部、四肢関節部、体幹

B慢性・反復性経過(しばしば新旧の皮疹が混在する)

以上の3項目を満たすものをアトピー性皮膚炎と診断する。

臨床経過:新生児〜乳児期は顔面、頭部が好発部位で紅班、びらん面に痂皮がおおい、全体として湿潤性である。幼児期〜学童期は膝、肘の屈側に掻破痕が目立ち、全体として乾燥型湿疹でアトピー皮膚(蒼白顔面、下眼瞼の色素沈着と皺、毛孔性角化などの)状態を示す。思春期までには多くは軽快して治癒するが、残りは難治性となる。

c)合併症

@眼症状(白内障、網膜剥離)

Aカポジ水痘様発疹症

B伝染性軟属腫

C伝染性膿痂疹

)治療法

アトピー性皮膚炎の治療法は、炎症、バリア機能の低下および瘙痒に対していろいろな薬物療法が行われる。同時にアトピー性皮膚炎の原因・増悪因子を追求し、心身医学的治療や生活指導を行うことも大切である。炎症に対してはステロイド外用療法が、バリア機能の低下に対しては保湿剤によるスキンケアが行なわれる。瘙痒に対しては抗ヒスタミン薬を服用し、外的刺激やアレルゲン、ストレスなどを減らすよう日常生活を改める。

a)薬物療法

アトピー性皮膚炎は遺伝的素因も含んだ多病因性の疾患であり、重症例においては疾患そのものを完治させうる治療法は確立されていない。

@)ステロイド外用剤

炎症を鎮静化させるためステロイド外用剤が使用されるが、必要以上に強いステロイド外用剤を選択してはならない。個々の皮疹の重症度に応じて、ステロイド外用剤の種類を選び、漫然と使用しない。乳幼児・小児では、成人の場合よりも1ランク低い外用剤を使うのがよい。また、ステロイドを含まない外用剤(ワセリン、尿素軟膏、ヘパリン類似物質含有軟膏、亜鉛華軟膏など)を併用するようにする。

ステロイド外用剤の使用による皮疹の改善と中止による再発を繰り返すうちに,患者が不信感を持ち,ステロイド外用剤に嫌悪感を募らせることも少なくない。

ステロイド外用剤は基剤の違いを理解し、軟膏、クリーム、ローション、テープ剤をケースバイケースで用いる。軟膏は痂皮、びらんなどを含めて適応範囲が広いが、べたつく。クリーム剤はベタツキが少ないが、皮膚を乾燥させるので、冬季は避けたい。ローションは有毛部の病変に適している。テープ剤は苔癬化病変や亀裂性病変などに適している。

外用回数は状態がよければ1日1回でよい。副作用を予防するためにも1日5〜10g程度ステロイド外用剤を続けて30日以上使用することは避けるべきである。ステロイド外用剤の副作用として、ステロイド痙瘡、ステロイド潮紅、皮膚萎縮、多毛、細菌・真菌・ウイルス皮膚感染症などがある。

なお、顔面は酒サ様皮膚炎などの副作用が出やすいので、ステロイド軟膏は使用しないでタクロリスム軟膏が好ましい。

A)内服療法

痒み止めとして抗ヒスタミン剤を服用するが、ステロイド剤の内服に関しては否定的な意見が多い。私は重症の成人アトピー性皮膚炎に対しては短期間のステロイド剤内服がよいと考える。一時的ではあるが炎症が抑えられ皮疹が改善し、バリア機能が回復すれば、精神的にも落ち着き、ステロイド軟膏の使用も減り、スキンケアの改善が期待できる。アトピー性皮膚炎の患者は医師にたいする不信感(対症療法への不満)が強くステロイド外用剤のみならず,他の内服薬や注射による治療も嫌がる傾向がある。一時的にせよ内服により皮膚炎がよくなる事を示してやることが大切で、ステロイド軟膏を減らして保湿剤などのスキンケア、抗ヒスタミン剤などで治療しましょうと納得させるのがベターと思う。短期間の内服では副作用もなく、リバウンドもない。

b)バリア機能の低下に対するスキンケア

乾燥およびバリア機能の低下に対して、保湿剤などでスキンケアを行う。保湿剤としては、保湿作用を有する尿素軟膏、ヘパリン類似物質含有製剤(ヒルドイドソフトクリーム)や皮膚の保護を目的とする白色ワセリン、ビタミンA含有軟膏(ザーネ軟膏)などがある。非ステロイド系消炎剤の外用剤(NSAID外用剤)は、保湿剤としてではなく顔面や炎症の程度が軽度な場合に用いられるが、抗炎症作用は弱く、逆に接触皮膚炎を生じることもある。

以上のように、薬物療法としては、@ステロイド外用剤、A抗ヒスタミン薬、B保湿剤の外用を組み合わせる。

)環境改善と生活指導

a)原因、増悪因子

特異的アレルゲンとして乳幼児では、食事アレルゲンの関与がある程度みられる。それ以降ではダニ、ハウスダストなどが関与していることもある。アトピー性皮膚炎は多因子疾患でありアレルゲンが明らかになった場合でも、その除去は補助療法であり、これのみで完治できるわけではない。行き過ぎた除去療法が、かえって害をもたらすことも少なくない。化粧品、ヘアスプレー、衣類、その他、日常生活で痒みを助長させるものはなるべく避けるようにする。

b)心身医学的側面

アトピー性皮膚炎の重症例、とくに成人重症例では、人間関係、多忙、失業、進路に対する葛藤、受験、失恋、自立不安など心理社会的ストレスが関与することが多い。ストレスからの逃避行為として嗜癖的または依存症とも呼ぶべき掻破が行われ、自ら皮疹の悪化をもたらす。この掻破行動は、痒みによるものの他に、ストレスからの逃れようとして、無自覚に行われており、掻くことに快感を覚えることもある。また、小児でも愛情の欲求が満たされない不満から、同様の掻破行動がみられる場合がある。

c)生活指導

皮膚の乾燥を防ぎ、皮膚を清潔に保つスキンケアを中心とした生活指導を行う。皮膚が乾燥すると、痒みを感じる知覚神経終末が表皮内に上行してくるため、皮膚の乾燥は、痒み一掻破サイクルの誘因になりうる。

以下のような点に留意して生活指導を行うとよい。

入浴、シャワーにより皮膚を清潔に保ち、洗浄力の強い石鹸を避け、ゴシゴシこすりすぎない事、その直後には皮膚の乾燥を防ぐ保湿剤を塗ること。

下着は(刺激の少ない保湿性の高い)木綿製のやわらかい肌着を使用するとよい。

爪は短く切り、なるべく掻かないようにすると同時にシャンプーや化粧品など皮膚と接触するものについても気をつける。

規則正しい生活を送り、暴飲・暴食は避ける。食事ではリノール酸の多い食べ物を控えること。

アトピービジネス、民間療法などに注意する。