はじめに

 

中国から世界各地へ瞬く間に広がり、多くの死者を出した新型肺炎(急性呼吸器症候群=SARS)は、新種のコロナウィルスが原因である。それまで知られていなかったウィルスが、とつぜん人間に感染し急速に広がる。こうした感染症を新興感染症(エマージング)といい、ウィルスをエマージングウィルスという。最近話題になったものにエボラ出血熱、マールブルグ熱などがある。人間の側から見れば、ウィルスの襲撃を受けたようにみえるが、実際は人間の営みがウィルスを含めた野生動物との共生関係を崩したことが原因である。

 

1)ウィルスの特徴

 

ウィルスはDNAもしくはRNAの遺伝情報と増殖に使う酵素たんぱく質を持つだけで、自らの代謝系を持たないので、宿主動物に感染して初めて生き、殖えることができる。だから野生動物と共生するウィルスは宿主を殺すことはせず、感染しても病気は発症しない。熱帯雨林などの野性動物に寄生しているウィルスは約3600種あるといわれ、それらのウィルスはおのおの熱帯雨林を自然宿主として、自然に世帯交代を続けている。

 

2)エマージングウィルスの出現

 

しかし人間は熱帯雨林を開発して野生動物を追い払い、野生動物を人間社会に持ち込むという、自分勝手な行動をし始めた。その結果、野生動物を自然宿主にしているウィルスが開発によって行き場を失った動物と共に人間社会に入ってきた。ウィルスは自然宿主には無害でも新しい宿主に遭うと猛烈な攻撃を開始する、というのがエマージングウィルス出現のパターンである。

 

3)環境破壊への警告

 

今回のSARSウィルスは経済発展目覚しい中国の広東省で発生した。安い労働力と労働者の勤勉さを求めて世界の企業が数多く中国に進出し、大きな工場が作られた。そのため広大な土地が開拓され、そこの野生動物に自然宿生していたウィルスがエマージングウィルスとなり人間社会にキバを向けた可能性がある。経済優先、開発優先を続けていくとこれからも第二、第三の新型肺炎が出るかもしれない。このように環境破壊が続けば次々と新しいウィルスが人間を脅かすであろう。

 

4)免疫力を高めるには

 

エマージングウィルス感染に対して抗生物質は無効であり、ワクチン生成も間に合わないことが多い。従って日頃から自分自身の免疫力を高めておく必要がある。ヒトの体には防御機構があり、病原体が入ってくると、白血球やリンパ球などの免疫細胞が連携して病原体を撃退する。免疫細胞が活発に動いて病原体を撃退すれば感染しても発病することはなく、免疫細胞が弱いと、病原体との戦いに敗れて発病する。つまり発病する、しないは、免疫力の強さにかかっている。免疫力を高める方法としては十分な栄養と睡眠、新鮮な酸素の供給が必要で、ストレスの少ない生活を送るのがよい。免疫細胞もヒトと同じように独立した生命体であり、元気に活動するためにはエネルギーが必要で、タンパク質、ビタミン、ミネラルなどの栄養素を十分に摂る。細胞膜が酸化すると細胞が活発に動けなくなるので、抗酸化力を多く含むビタミンBやC、べータカロチンを摂るのがよく、例えばお茶や、ニンジンやトマトなど色素の含まれる食べ物がお奨めである。逆にコーヒーや揚げ物は細胞膜を酸化して細胞の活動を鈍らせるので、できるだけ控えること。酸素が不足すると免疫細胞のエネルギーが作り出せないので、新鮮な酸素を十分取り入れる。ストレスは免疫細胞の活動を阻害するので、ストレスをためない生活を心がける。免疫の重要性について考える必要を感じる。