八ヶ岳(赤岳)登山記

 

200174日私たち夫婦で八ヶ岳の主峰、赤岳に登ることにした。朝340分、車で自宅を出て、520分美濃戸山荘に着いた。赤岳に登るにはいろいろのルートがあるが、私たちは赤岳鉱泉を経て行者小屋へ行き、地蔵尾根を通って赤岳に上ることにした。軽く体をほぐした後、530分に北沢ルートから登り始めた。登山道の途中には多くの野鳥がさえずっており、時には駒鳥の鳴き声も聞こえた。途中で川のそばにある木の上でミソサザエが尾をあげ体を左右に動かしながら元気よくさえずっていた。登山道の脇にはミヤマオダマキ、オサバグサなどの花が咲いていた。私たちは8時頃、行者小屋へ到着した。

 

行者小屋から見る八ヶ岳連峰は右から阿弥陀岳、中岳、赤岳横岳、硫黄岳と続く稜線が、大障壁のようにぐるっと行者小屋を取り囲んだような感じで、非常に迫力があった。これからあの赤岳に登るのかと思うと、自分の気持ちがぐっと引き締まった。私たちは行者小屋で一休みしてから地蔵尾根を登り始めた。登山道は急勾配でありシラビソ、ダケカンバの樹林の間を登っていき、木の間越しからの展望は素晴らしかった。樹林を過ぎると視界が開け、後方を見るとはるかかなたに槍・穂高連峰の山並みが見えた。このあたりで見る左手の横岳、右手の赤岳は鋭く立ち上がった独特の風貌を見せていた。赤褐色に酸化した岩稜を鎖伝いに登っていくと、横岳から赤岳への稜線に着いた。ここは地蔵の頭と呼ばれ、お地蔵様が祀られていた。今までの無事と今日の安全登山を祈願して合掌した。稜線から赤岳山頂を仰ぎ見るとその左に富士山がくっきりと浮かんで見えた。振り返って反対側には横岳が横たわり、西側のはるかかなたに後立山連峰、槍ヶ岳・穂高連峰、乗鞍岳が見えた。赤岳の右側には中岳と阿弥陀岳が構えていた。この地蔵仏のある分岐部から赤岳山頂までの標高差は約180mである。

 

稜線上を登り始めるとその左右にイワウメミヤマダイコンソウチョウノスケソウなどの高山植物が咲き乱れていた。チョウノスケソウは以前白馬鑓ケ岳で見たことはあるが、八ヶ岳の稜線上のチョウノスケソウはいたる所に群生し、素晴らしかった。高山植物図鑑によるとチョウノスケソウは、八ヶ岳の稜線で見られる夏の花の代表的な一つで、和名は発見者の須側長之助の名を記念したものである。チングルマに似た常緑少低木で、緑色のカーペットに白い花をちりばめ、日本ではこの八ヶ岳のほかに白馬鑓ケ岳、北アルプス最奥地の水晶岳、立山の一の越などいずれも風が強い岩場に生える。なぜチョウノスケソウがこのような厳しい自然環境を選ぶのか不思議である。イワウメは高山の岩壁や礫地に生える常緑小低木で、岩場を這うように茎を広げて増え、葉は長さ約1cm、花の径は1.53cmで梅の形に似ている。花は高山植物特有の頭でっかちな感じがする。赤岳展望荘の近くに来るとウルップソウが咲いていた。はやや湿った砂礫地に生える多年草で、花は青紫色で長さ約1cm、茎の上部に穂状にびっしりとつく。ウルップソウは礼文島、白馬岳、八ヶ岳など数箇所にしか見られない。私は昨年、白馬岳に登った時ウルップソウを数多く見たが、今年は八ヶ岳でも見ることができ感激した。

 

赤岳山頂に近づくにつれ岩礫の斜面にはハクサンイチゲオヤマノエンドウタカネシオガマミヤマキンバイイワヒゲツガザクラ、イワカガミ、ハクサンシャクナゲなどが咲き誇っていた。イワヒゲは肉質の細かな葉が茎を包み込んでおり、ヒゲという名前もこの棒状に垂れ下がった茎葉からきている。花は鐘形で白色またはわずかの赤みを帯びる。私たちはこれらの高山植物に励まされながら岩稜を登り、赤岳頂上小屋を越えてすぐ先の南峰の赤岳山頂に到達した。山頂には三角点と祠があり、八ヶ岳連峰の最高峰からの360度の展望は素晴らしく、富士山、南アルプス、はるか残雪を抱く北アルプスの展望は印象的であった。山頂で昼食をとり展望を満喫した後、行者小屋への帰路に着いた。帰りのルートは文三郎道を下った。文三郎道はかって行者小屋を経営していた茅野文三郎が拓いたルートで赤岳と行者小屋までの最短ルートだが、石ころでザレタやせ尾根で、鎖、ジグザグの階段、鉄や丸太で補強した階段があり、かなり気を使う登山道であった。文三郎道の途中で、後ろを振り向くと今下ってきた赤岳山頂が見えた。行者小屋で一休みをして、南沢ルートを通って美濃戸山荘についた。到着時刻は午後130分で、所要時間は約8時間の登山であった。