食物アレルギー

 

食物の摂取によりアレルギー症状が出現する場合を食物アレルギー(food allergy)という。アレルギー反応により口唇、口腔粘膜の接触皮膚炎様の症状から気管支喘息、蕁麻疹、胃腸障害を引き起こすものまでいろいろ見られる。時には血圧低下、顔面蒼白、呼吸困難、意識混濁など生命にかかわる急激な全身の反応(アナフィラキシーショック)を起こす。

 

1.原因となる食物

 

即時型食物アレルギーの原因食品

卵、牛乳、大豆が代表であるが小麦、米を含めて五大食物アレルゲンと呼ばれる。その他には、ソバや、かに、えび、たこ、いかなどの魚介類、キュウイフルーツ、バナナ、柑橘類などの果物、ピーナツ、アーモンドなどのナッツ類が食物アレルギーを起こす。なお、ソバ、ピーナツはアナフィラキシーショックを起こすことがある。

小児と成人では原因となる食品に違いがあり、小児では卵、牛乳、乳製品、小麦、甲殻類、魚介類が多く、成人では卵、牛乳が少なく、甲殻類、魚介類、果実が多い。また、卵や牛乳の成分から作られている薬剤(塩化リゾチーム、タンナルビン、乳酸菌製剤、一部の抗生物質)もアレルギーを起こしやすい。

 

2.感作の成立

 

感作の成立には、食品中の蛋白が分解されないまま抗原として吸収されることが必要である。生体の腸管粘膜は、正常ではコロイドを透過させないが、ある条件の下で少量の蛋白がそのまま通過し、アレルギー反応を起こす。乳幼児は腸管の発育が未熟であると消化力が不十分で蛋白が透過しやすくなる。感染性胃腸炎などにより胃腸の機能低下により腸内細菌(ビフィズス菌)のバランスが崩れ善玉<悪玉となったり、自律神経失調により副交感神経<交感神経となった場合などにも感作が成立しやすい。なお、植物性食品では植物性蛋白が抗原となる。

さらに、遺伝子組み換えや農薬、抗生物質使用による食品成分の変化もアレルギー反応を起こしやすくなる。

 

3.主な食物アレルゲンについて

 

年齢群別原因食品

小麦や米に対するIgE抗体保有率は加齢とともに増加するといわれる。卵や牛乳に対する抗体は乳幼児期に多く見られるが、成長するにつれ減少する。卵や牛乳はアトピー性皮膚炎の増悪因子と考える人もいるが、除去食療法を行なっても皮膚症状は改善しない事が多い。ソバは成人なっても食物耐性ができない。加えて重篤な即時型アナフィラキシー症状を誘発する。魚類では、エビやカニが重要であるが、北欧ではタラアレルギーが知られている。アメリカではピーナツアレルギーが多く、これもアナフィラキシー反応を引き起こす事がある。果物では、柑橘類や、リンゴ、キュウイフルーツなどが口腔アレルギー症候群の原因となる。

 

4.症状

 

即時型食物アレルギー症状

果物などが粘膜と接触すると、口唇、口腔粘膜、咽頭の浮腫と瘙痒感を引き起こし、口腔アレルギー反応と呼ばれる。通常は一過性である。食物アレルゲンが胃から腸に進むと、悪心、嘔吐、腹痛、下痢などが起こる(これらは接触アレルギーによるもので摂食直後に起こる反応である)。次に、食物が吸収され、血行を介して全身の臓器に運ばれてアレルギー反応が生じると喘息、蕁麻疹などが起きる。時にはアナフィラキシーショック症状を呈する事もある。これらは即時型食物アレルギーといわれ、食物摂取後60分以内に起こる事が多い。

なお、食物アレルゲンが身体に付いた時には接触皮膚炎を生じ、ソバ粉などを吸入すると咳嗽、喘鳴、呼吸困難となる。

 

5.アナフィラキシー時の対応

 

アナフィラキシーショックの治療は呼吸・循環不全を速やかに改善することが重要である。酸素呼吸と血管確保をしてから輸液、ステロイド剤の点滴、その他必要があれば昇圧剤などを注射する。

1)    仰臥位・下肢の挙上

2)    酸素投与

3)    エピネフリン(ボスミン0.001ml/kg)注射

4)    静脈ルート確保・補液

抗ヒスタミン薬(H1受容体アンタゴニスト、H2受容体アンタゴニスト)

ステロイド剤

気管支拡張薬(アミノフィリン、交感神経β2刺激薬)

 

6.耐性獲得(outgrow)について

 

食物アレルギーは乳幼時期に多く、加齢とともに原因食物を摂取しても症状がなくなる状態、すなわち耐性を獲得(outgrow)するようになる。この理由として、成長に伴い消化力が十分になること、さらに腸管内の免疫機構とくに分泌型IgAの増加によるものと推定されている。

食物アレルゲンの耐性獲得時期に関して幾つかの報告がみられる。原因食物の除去療法を三歳まで観察した症例では、大豆、小麦、牛乳、卵の順に耐性を獲得していった。他の例では米、小麦、牛乳、大豆、卵の順に耐性獲得が見られたという。つまり、米、小麦、大豆は比較的早く三歳までに耐性が獲得されるようである。卵、牛乳はもう少し遅れるので、小学校低学年までは卵、牛乳が重要な食物アレルゲンとなる。そして九歳頃には約8割のヒトが耐性を獲得する。なお、耐性獲得は食物の種類によっても異なり、牛乳や卵に対するアレルギーはoutgrowしやすいが、ナッツ類や魚介類はoutgrowしにくいといわれる。従って、成人ではナッツ類、魚介類、果物によるアレルギーが多く、特にソバは重篤なアナフィラキシー症状を起こすので、注意が必要である。

 

7.原因食物の除去

 

原因が確定した場合は、その食物を含むすべての食品を完全に除去する事が必要になる。ただし、食物除去はかなりの労力を必要とし、ストレスを生じやすい。また栄養のバランスを欠きやすいので、必要以上の食物除去は行なわない。そして代用食品などを利用するのもよい。原因除去食開始によりアレルギー症状の出現を抑えつつ、加齢に伴う腸管の消化能力の発達、腸管内の免疫機構とくに分泌型IgAの増加などで、アレルギー反応が起きにくくなることを期待する。なお、アトピー性皮膚炎の治療の際、特異的IgE抗体と皮膚炎発症の関係は低いため、原則として食事制限は行なわない。

 

8.食物除去の解除について

 

食物アレルゲンの抗原性は加工あるいは加熱で低下するため、食物除去を止めようとする時は加工品から始めるとよい。例えば、一歳を過ぎた頃から、お粥を食べさせてみて、次いで、昧噌、醤油などの調味料を与え、様子をみながら豆腐、豆乳、納豆などの大豆類を試してみる。米、大豆にアレルギーがなければ、次に小麦類のうどん、そうめん、ミルクノンパンを与えてみる。小麦アレルギーはまれにアナフィラキシーを来たす事があるので注意深く行なう。牛乳と卵の耐性獲得はやや遅れるで、ニ歳を過ぎてから試みるのがよい。卵に関してはビスケット、クッキーなどから始め、牛乳についてはヨーグルト、チーズ、バターなどの乳製品で反応をみる。そのまま反応がなければ、三歳を過ぎてから固ゆで卵、アイスクリームやプリン、茶碗蒸しなど抗原性の強い卵製品をためす。最後に牛乳、生卵、マヨネーズ、生クリームを与えてみてアレルギー症状の出現がないことを確認するのがよい。

 

9.学校給食と食物アレルギー

 

食物アレルギーは加齢とともに耐性を獲得するが、時には幼稚園や小学校などの集団生活に入るまで耐性を獲得できない場合がある。学童の場合はそば、小麦、ピーナツ、甲穀類などが多く、これら食物アレルギー児に対してアナフィラキシーの既往があれば、給食においても完全除去しなければならない。なお、食物依存性運動誘発性アナフィラキシーという特殊な病態があり、小麦などの特定の食物を摂取した後に運動をすることによりアナフィラキシーを起こす。ただ種類が特定されない食物摂取と運動の組み合わせによってもアナフィラキシーを生ずる場合もある。食物が特定されれば除去を行い、特定されない場合は給食の後4時間以上の間隔をあけてから運動するのが望ましい。

 

10.危険な食事性蕁麻疹(アレルギー性反応)

 

a)      食物依存性運動誘発性アナフィラキシー:食物(小麦が最も多い。次いでエビ、イカ、カニなどの魚介類)+運動=蕁麻疹、呼吸困難、血圧低下、意識喪失

b)      口腔アレルギー症候群:シラカバ花粉症+メロン、モモ、リンゴなどの果実類=シビレ感、膨疹、呼吸困難

c)      ラテックスアレルギー:ラテックス接触皮膚炎+バナナ、アボガド、クリなどの果実類=全身性蕁麻疹、アナフィラキシー

 

自験例(食物依存性運動誘発性アナフィラキシー)

16歳の高校生。野外学習として体育の授業があり、昼食に仕出し弁当(エビフライ)を食べた。約30分後、バレーの試合に参加。しばらくして全身に蕁麻疹が出現したため当院を受診。ソルコーテフの静注により治癒した。この例は蕁麻疹が出るとすぐ運動を止めて、受診したのが幸いであった。ランニング、水泳などで蕁麻疹が出てもそのまま運動を続けていれば、重症になる可能性があった。

 

食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの頻度

小学生は約16400人に1人、中学生は約5900人に1人、高校生は約11600人に1人、全体では約1400人に1人の割合。男子が80%(24人)を占めた。正しく診断されていたのは半数以下で、中高生22人のうち4人が5回以上発症を繰り返していた。昨年の小学校調査では病気を知っている養護教諭は約64%だった(横浜市立大の相原雄幸助教授の調査)。

 

食物依存性運動誘発性アナフィラキシーの発症機序

                            3040分以内

消化・吸収                                      運動

(副交感神経活動)                        (交感神経活動)

交感神経優位になりたんぱく質がアミノ酸に分解されずに腸管から吸収され、食物アレルギーが発症するのではないか。

 

参考:即時型アレルギーの実態(2001/02年度厚労省調査より)

 

調査対象は、何らかの食物を摂取後60分以内にその食物に対してアレルギー症状を呈し、かつ医療機関を受診した患者。2001年度は2294人、02年度は1546人の合計3840人が分析対象となった。年齢分布は0歳児の約1200人をピークに加齢とともに減少しており、6歳以下が全体の3分の210歳以下が全体の8割を占めた。食物アレルギーは小児の疾患であることが再確認された一方で、20歳以上の成人も1割弱を占めた。成人は軽い症状では受診しない可能性もあることから、潜在患者を含めると成人の即時型食もとアレルギーは集計結果よりも多いことが推測される。

 

乳幼児ではイクラが問題に

 

抗原別頻度の1位は鶏卵(38%、02年度の調査、以下同様)で、2位が乳製品(15%)、3位は小麦(7%)だった。4位以下で全体の1%以上を占めた食品は、順に果物、そば、エビ、魚類、ピーナツ、魚卵、肉類、大豆、木の実だった。原因抗原には年齢による違いが認められた。0歳では鶏卵、乳製品、小麦の3大抗原が全体の9割を占めたが、1歳および23歳では3大抗原は変わらないものの、食生活の多様化に伴いほかの食品も増加していた。特筆すべきは魚卵(主にイクラ)が1歳児で7%、23歳で5%と比較的高い割合を占めた。最近の母親は1歳児であっても生のイクラを与えてしまうようだ。一方、成人で一番多いのは小麦(15%)で、以下果物(13)、魚類(11)だった。ピーナツは成人では1%未満だが、20歳未満で36%を占めることや、欧米で主要な抗原食品であることを考えると、今後注目すべき抗原食品であることは間違いない。

 

重篤な症状は加齢とともに増加

 

最も多い症状は、蕁麻疹などの皮膚症状で88.0%を占め、以下、喘息などの呼吸器症状(26.7%)、唇の腫れなどの粘膜症状(23.0%)、下痢などの消化器症状(12.9%)と続く。また、死者はいなかったが、意識障害などを伴うショック症状が出た人が418(10.9)いた。200102年度調査全体で入院した患者は12.4%だったが、ショック症状を呈したものでは43.6%、特に血圧低下や意識障害を生じた95人(4.1%)では実に62.1%という高い入院率となった。ショック症状の原因食品は非常に多岐にわたっているが、血圧低下や意識障害などの重篤な症状の発生頻度が平均と比較して有意に高かったのは、そばと小麦であった。また、加齢とともに重篤な症状の発症頻度も増加していた。

 

表示すべき17品目をリストアップ

 

@年齢に関係なくアレルギーを起こす頻度が高い(1%以上)上位食品として鶏卵、乳製品、小麦、そば、エビ、ピーナツ、大豆、キウイ、バナナ、A年齢別にみて頻度が高かった(5%以上)イクラ、Bショック誘発食品の中で1%以上を占めたモモ、C意識障害や血圧低下といった重篤な症状の誘因食品として高頻度(1%以上)だったカニ、イカ、ヤマイモ、ブリ、タコ、サケという17品目が挙げられる。

 

 

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